他のひととのチューなんて忘れるくらいチューをする・・・?


ナインは帰る道すがら、ずっとそればかり考えていた。
運転しながらだったから、危なっかしいことこの上ない。
しかもにやにやしてるものだから対向車の運転手は一様に顔をしかめた。
にやにや笑いを浮かべながら車を駆る男の図。それはいったいどんなものであろうか。


だったら、お返しのチューもしなくちゃな!


チューひとつに波風立ったのは去年のこと。
あれから随分経ったなあとナインは感慨深かった。
まさかスリーから「チューしちゃうから」なんてセリフを聞く日が来ようとは。

チューひとつに戸惑っていたスリーも可愛いかったけれど、今のスリーもいい。一段と可愛さが増している。


可愛い僕のフランソワーズ。

 

知らず鼻唄をうたっていた。

 

 

 

 

バレンタインデーはチューをたくさんしちゃう日!

 

そう言ったのは自分だったけれど、冷静に考えてみれば、別にそうしなくても良かったのだ。

ただ、仕事とはいえ、ジョーが不特定多数の女子とスキンシップをとるのは嫌だった。
あくまでも仕事であり、自分に対するようなものではないとわかっていても嫌だった。

その日は空いていないと聞いた時のショックとあいまって、嫉妬なのかわがままなのかわからぬままだった。


・・・ジョーを独り占めしたかっただけなのに。


どうしてこう妙な方向へ行ってしまうんだろう?


「大体、他のひととのチューを忘れるくらいのチューって」

いったいどんなチューなのよっ。


と、今更ながら、大胆な事を言ってしまったのかもしれない・・・と、頬が燃えるように熱くなった。