(2)
今年はどんなチョコレートにしようかあれこれ迷って、結局、去年と似たようなものになってしまった。
ひとくち大の大きさのハート型のチョコレート。
とはいえ、それでも少しは違うのだ。
なにしろ、去年はうんと甘くしたけれど、今年は――少しだけ大人な気分の苦い味。
カカオたっぷりの、甘いのが苦手なひとでも大丈夫なチョコレート。
でも、ナインは甘いのと苦いのとどちらが得意なのかスリーにはわからなかった。
白い箱に赤いリボンをかけて出来上がり。
スリーは満足げにテーブルの上のそれを見つめた。
白と赤にしたのはナインの防護服の色みがそれだから。
もちろん、その姿は平和とは掛け離れているから、あまり目にしないほうがいいのだろうけれど、それでもその姿の時の彼は――真剣で真摯で正義のひとで、まっすぐな瞳だから、そんな彼が好きなのだ。
平和なときの、ちょっと呆れ顔だったり怒ってたり、大笑いしてる彼も好きだけれど。
――どんな顔するかな。
明日はナインが主役の「ファンの集い」会場まで行って、そうしてイベント終了後に一緒に帰る。
ずうっとナインを待っているのだ。
彼は難色を示したけれど、スリーにとってはどうってことなかった。
むしろ、彼と待ち合わせという滅多にないことが楽しみで仕方なかった。
・・・と、いうことになっている。
ナインにとっては。
「ファンの集い」の打ち合わせのため、ここ数日彼とは会っていない。電話だけである。
だから、いつもは無理なことができてしまった。
顔を見合わせたら絶対に無理なこと。
――ナインに嘘をつくこと。
どういうわけか、彼にはすぐわかってしまうのだ。嘘をつくと。
何か顔に出てしまうのだろう。
だから、彼の顔を見ながら嘘をつくのは無理だった。
でも――だったら、顔を見なかったら?
そんなわけで、明日は楽しい日になるだろう。
このチョコレートを渡したとき、彼はどんな顔をするだろうか。
呆れるだろうか。
怒るだろうか。
笑うだろうか。
それとも――
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