(8)
翌日15日。 降りてきたのはスリーとナイン。 「すぐコーヒー淹れるわね」 くすくす笑いあって、そうしてスリーが先に中に入った。 「ただいま」 困惑顔のセブンが迎える。 「お客さん?博士に?」 まあ大変、お茶菓子何かあったかしらとキッチンに向かうスリーの背をセブンの声が追いかける。 「違うよ、スリーにだよ」 足を止めて訝しそうに見つめるスリーにセブンが何か言おうとした矢先、客人本人が姿を現した。 「おはよう、フランソワーズ」 花束を抱えた王子様だった。 「どうしたの?今日来るって言ってなかったわよね・・・?」 戸惑うスリーの鼻先に真っ赤な薔薇の花束が差し出された。甘い香りが鼻腔をくすぐる。 「まあ、綺麗!」 スリーの肩を抱くようにして促すゴーチェ。 「フランソワーズ。コーヒーはまだかな」 ほっとしたように笑顔を見せるスリーの手から「僕が預かっておくよ」と親切そうな笑みを浮かべ薔薇の花束をもぎとったナイン。さりげなくスリーをゴーチェのプライベートスペースから自分の側に引き寄せる。 「出たな、ナイン。きみは酷い男だな。フランソワーズを悲しませてるのにそれに気付かないなんて、まったくもってフランソワーズにふさわしくない」 ナインはにやりと笑うと、一歩彼の方へ踏み込んだ。 「――僕たちはたった今帰ってきたんだぜ?」 ちらりとスリーに目を遣る。 「朝帰りの意味がわからないわけじゃないだろう?」 ゴーチェは呆然とスリーとナインを見つめた。 「嘘だろう?」 ナインの腕を振り解くと、スリーは真っ赤になってキッチンへ逃げ込んでしまった。 「悪いね。僕たちはそういう仲なんだ」 薔薇の花束をゴーチェに押し付けると、ナインはそのままリビングへ入って行った。 「・・・あのさ」 セブンが申し訳なさそうに彼をつつく。 「それ、オイラが代わりに貰ってもいいよ」
以来、薔薇を持った王子様は二度と現れることはなかった。
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