3月9日=3×9の日。ということで、そんな感じのお話です。
お題三つで展開します。
1.冗談で言われたことが図星だった  2.気づかないうちに、どのぐらい好きか言ってしまった  3.感動して泣いてるところを見られてしまった

旧ゼロです。

 

今日はジョーの家で映画を観ていた。
ずうっと前に上映されたもので、その時はミッションがあって観に行く機会を逃し、そのままになっていた。
それがやっとDVDになって観ることができるようになったから、私はジョーにおねだりして借りてきてもらった。
だから今日はふたりっきりで映画を観る日。
そんな夜だった。

 

シーン1:冗談で言われたことが図星だった。

 

「――恋愛ものかぁ」


何度目かのため息をつくジョー。
彼は最初から嫌がっていた。恋愛ものなんかかったるくって見てられないよと言って。
その上、こんな安易なストーリーがいいなんてきみって本当に子供だなとも。

子供で悪かったわね。

ジョーは政治ものとか戦闘ものを見たがるけれど、私からみればそっちのほうが子供っぽいんじゃないかと思う。
だって、どちらのジャンルも要は自分の領地を広げたい男の奪い合いの話でしょう?
陣地取り合戦のお話なんて・・・ねぇ?

ともかく、私はジョーの手を振り切ってDVDをセットしたのだった。
(だって、セットするだけなのに機械のそばに行かせないようぎゅうっとしてくるんだもの)
諦めたようにソファに深く座ったジョーの隣に私も腰掛けた。
ジョーが鼻を鳴らす。


「こんな甘ったるいの、観ている途中で絶対寝ちゃうな」
「あら、だったらどうぞ。なんなら肩を貸しましょうか?」
「要らない」
「ほんとに?我慢はよくないわよ?」

冗談めかして彼の鼻をつつく。
ジョーは顔をしかめると、やめろよなんて言って私の手を払った。

「ふふ。強がっちゃって」
「別に強がってないよ。本音さ」
「ふふっ。ジョーがそういう顔する時って嘘だもの。私にはちゃあんとわかるの」
「・・・そんなわけないだろ。僕の顔色を読んだつもりだろうけれど100万年早いね」
「100万年一緒にいるって言ったでしょ?」
「・・・さあね。そうだったかな」
「もう。そう・・・わかったわ。殿は私の肩じゃなくて、膝を御所望なのですね?」

くすくす笑いながら言ってみる。
いい加減にしろよと言われるだろうと予想していたのだけど。

「・・・・」

何も言われない。
不審に思って顔を上げると、ジョーと目が合った。

「っ、なんだよ」

・・・・ジョー、あなた、顔が真っ赤よ?

「うるさいな、見るなよ」

だって。

「ほら、映画が始まるぞ」

そうだけど。

「だから、こっちを見るなってば」

 

・・・殿は膝枕が御所望だったのね・・・?

 

 

 

シーン2:気づかないうちに、どのぐらい好きか言ってしまった

 

映画は佳境に入っていた。
ジョーはなんだかんだ言って、ずっと眠らずに静かに映画を観ている。
けっこう夢中になっているみたい。


「あ」
「なあに?」
「いや・・・今のセリフだけど」
「うん」

それは、ヒロインに向かって恋人が彼女のことをどんなに好きか切々と訴える場面だった。

「馬鹿だよなあ、こんな言い方して」
「こんな言い方、って?」
「だからさ。これじゃー伝わらないだろ?もっとこう・・・そうだな」

ちらりと隣を窺うと、ジョーは画面を見つめながらなにやら真剣な表情だった。


「他にどんな女の子がいても目に入らないとか、一緒にいる時間が一番大事だとか」

「きみの淹れたコーヒーが一番美味しいから、僕はほかで飲む気にならないとか」

「それはほかで飲んだら絶対、きみの淹れたコーヒーと比べてしまってきみを思い出すからイヤなんだとか」

「蒼い色を見たら思いだすから、空とか海を見るとちょっと照れるとか」

「たまに青信号でもそうなるからレースの時はちょっと困るとか」

「でも、おかげで無事にレースを終えることができるから、やっぱりいいのかなとか」

「――なんて普通は面と向かって言えないよな。だから映画は不自然だ、って言うんだ。こんな甘っちょろいの、観ていて本当に面白いのかい?」


・・・じゅうぶん、面白かったです。


「えっ?なんだい、何を笑って・・・・・・・・・・ああっ!!!」


ジョーは目を見開くと、そのまま気絶したかのようにぐったりとソファにもたれかかった。
天井を見つめたままぴくりとも動かない。

私は笑ったらいいのか、照れたらいいのかわからなくて、だからちょっとだけジョーの手に触ってみた。

ジョーは一瞬ぴくりとしたけれど、そうっと手を握ってくれた。

 

 

 

シーン3:感動して泣いてるところを見られてしまった

 

映画はラストを迎えていた。
ジョーが嫌がったとおりのストーリー展開で、最後は涙涙のエンディングだった。

エンドロールを観ながら私が涙を拭っていると、隣のジョーはとても静かだった。
やっぱり寝ちゃったのかしら。

そうっと顔を覗き込んだら。


「・・・ジョー?」
「え、あ、なんだっ」
「ええと・・・」
「なんだよ、別に泣いてなんかないぞっ」

そんなこと言ってないんだけど。

「これは、あまりに退屈で欠伸をしたら涙が出ただけだっ」
「・・・そう」
「そうだ!」

でも、声がしっかり涙声なんだけど?

「ああもう、眠いったらないな!」

そう言うと、ジョーは強引に私の膝に頭を載せた。

「膝枕してくれるんだろう?」
「えっ?ええ・・・」
「僕は寝る!」
「あ、はい。おやすみなさい」
「おやすみっ」

断固として目を閉じるジョー。

もう。

どうして素直じゃないのかしら。

彼の言うところの「甘っちょろい女ものの映画」を観て感動して泣いてしまったなんて、やっぱりかっこ悪くて言えないのかしら。別に恥ずかしいことじゃないのにね。

でも、そんなところが


・・・かわいい。


私はジョーの前髪をそうっと撫でた。


「うるさい、触るな。寝れないだろ」

怒ったように言うのもただの照れ隠しに聞こえるから不思議。あんまりかわいくて、食べちゃいたくなった。


「フランソワーズ、だから触るなって――」


私はちょっと強引にジョーの唇を塞いでいた。


「む、ふ、ふらんそ」

 

たまにはいいでしょ?

 

 

 

ジョーはじたばたしていたけれど、じきに静かになった。

私は頭の片隅で、このあとの反撃がちょっと怖いなと思っていた。

 


END