旧ゼロです。
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 今日はジョーの家で映画を観ていた。 | 
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 シーン1:冗談で言われたことが図星だった。 
 「――恋愛ものかぁ」 
 子供で悪かったわね。 ジョーは政治ものとか戦闘ものを見たがるけれど、私からみればそっちのほうが子供っぽいんじゃないかと思う。 ともかく、私はジョーの手を振り切ってDVDをセットしたのだった。 
 冗談めかして彼の鼻をつつく。 「ふふ。強がっちゃって」 くすくす笑いながら言ってみる。 「・・・・」 何も言われない。 「っ、なんだよ」 ・・・・ジョー、あなた、顔が真っ赤よ? 「うるさいな、見るなよ」 だって。 「ほら、映画が始まるぞ」 そうだけど。 「だから、こっちを見るなってば」 
 ・・・殿は膝枕が御所望だったのね・・・? 
 
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 シーン2:気づかないうちに、どのぐらい好きか言ってしまった 
 映画は佳境に入っていた。 
 それは、ヒロインに向かって恋人が彼女のことをどんなに好きか切々と訴える場面だった。 「馬鹿だよなあ、こんな言い方して」 ちらりと隣を窺うと、ジョーは画面を見つめながらなにやら真剣な表情だった。 
 「きみの淹れたコーヒーが一番美味しいから、僕はほかで飲む気にならないとか」 「それはほかで飲んだら絶対、きみの淹れたコーヒーと比べてしまってきみを思い出すからイヤなんだとか」 「蒼い色を見たら思いだすから、空とか海を見るとちょっと照れるとか」 「たまに青信号でもそうなるからレースの時はちょっと困るとか」 「でも、おかげで無事にレースを終えることができるから、やっぱりいいのかなとか」 「――なんて普通は面と向かって言えないよな。だから映画は不自然だ、って言うんだ。こんな甘っちょろいの、観ていて本当に面白いのかい?」 
 
 
 私は笑ったらいいのか、照れたらいいのかわからなくて、だからちょっとだけジョーの手に触ってみた。 ジョーは一瞬ぴくりとしたけれど、そうっと手を握ってくれた。 
 
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 シーン3:感動して泣いてるところを見られてしまった 
 映画はラストを迎えていた。 エンドロールを観ながら私が涙を拭っていると、隣のジョーはとても静かだった。 そうっと顔を覗き込んだら。 
 そんなこと言ってないんだけど。 「これは、あまりに退屈で欠伸をしたら涙が出ただけだっ」 でも、声がしっかり涙声なんだけど? 「ああもう、眠いったらないな!」 そう言うと、ジョーは強引に私の膝に頭を載せた。 「膝枕してくれるんだろう?」 断固として目を閉じるジョー。 もう。 どうして素直じゃないのかしら。 彼の言うところの「甘っちょろい女ものの映画」を観て感動して泣いてしまったなんて、やっぱりかっこ悪くて言えないのかしら。別に恥ずかしいことじゃないのにね。 でも、そんなところが 
 
 
 怒ったように言うのもただの照れ隠しに聞こえるから不思議。あんまりかわいくて、食べちゃいたくなった。 
 
 
 
 たまにはいいでしょ? 
 
 
 ジョーはじたばたしていたけれど、じきに静かになった。 私は頭の片隅で、このあとの反撃がちょっと怖いなと思っていた。 
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