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朝、いつものようにナインがギルモア邸にやってくると、何故か玄関で待ち構えていたセブンに突然
「アニキなんて大嫌いだっ」
と言われた。
「……何?」
「だから。アニキなんてだいっきらいだって言ったんだっ」
「……」
常日頃からセブンの感情の起伏に関しては興味深いところがあったが、いくらなんでも唐突すぎる。
しかも内容が内容である。理由もなく嫌われるいわれはナインにはなかった。
「……いったい、」
眉間に皺を寄せ詰め寄ったところへ
「へへーん。ひっかかったひっかかった。驚いたかい?嘘だよーん。今日はエイプリルフールだからさ、だから」
みなまで言わせず、ナインはセブンを抱えるとその尻を叩いていた。
「まったく。嘘吐きは泥棒の始まりって言うだろう?」
「だって今日は嘘をついてもいい日じゃないか」
「そんな日は無い。真に受けるな」
「だってテレビで」
「それでも、だ。駄目なものは駄目だ。特にひとを傷つけるようなものは」
「じゃあ、アニキは傷ついたんだ?オイラに嫌われてると思って」
「……」
尻を叩くナインの手に力がこもったことは言うまでもない。
***
「……全く。セブンはテレビに感化されすぎだ」
スリーの淹れたコーヒーを飲みながらナインはぼそりと呟いた。
「あら。それだけ平和ってことでしょう。いいじゃない」
「嘘をつくのは駄目だ」
「ふふっ、ジョーったら。セブンに嫌いって言われたのがそんなにショックだったの?」
「……」
「セブンはご機嫌だったわよ?オイラはアニキに慕われてるんだーって」
「……別に慕ってない」
「いいわよねぇ。私もセブンのように思われたいわ」
「だから慕ってないって」
「私はお慕いしてますけど?」
「ふうん」
「ジョーは?」
「えっ?」
「慕ってないの?」
「セブンだろ。慕ってないよ、別に。ふつうだ」
「セブンのことじゃないわ」
「えっ?」
「――知らないっ」
そのままふいっとリビングを出て行くスリーの背を見送り、ちょっと首をかしげ――ナインが慌てて腰を上げたのはそれから数分後であった。
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