旧ゼロ「カフェでよそ見」

 

 

 

ジョーが他の女の子を見ている。


それに気付いたのは、メニューを決めて顔を上げた時だった。
たぶん、決めるのに時間がかかりすぎたのだろう。
だからジョーは手持ち無沙汰でキョロキョロして――綺麗な女の子を見つけた。

――私が悪い。

フランソワーズはそう思った。

例えデートしているさいちゅうだとしても、彼氏がよその女の子を見るなどあってはならない。

が。


それはきっと、私に魅力がないから。


あるいは。


今はこうして一緒にいるけれど、ジョーにとって私は「ただの仲間」なのかもしれないし。
もしかしたら「手のかかる妹」にしか思えないのかもしれない。結局は。

そう思うから、「ジョー、誰を見てるの」「どうしてよそのひとを見るの」と詰問できなかった。

ただじっと――ジョーの横顔を見るだけ。

ジョーはというと、目を細めて何か愛しいものでも見るようなそんな顔だった。


「――可愛いなあ」


空耳かと思った。けれど。


「目が離せないな」
「……そう」
「うん。――ちょっと行ってもいいかな」


えっ……


フランソワーズが答えに詰まっていると、ジョーは席を立った。
そのまままっすぐ女の子のほうへ向かう。

フランソワーズはそちらのほうを見ることができなかった。
こうして一緒に来たのに、彼氏が他の子に声をかけるなんて。

ああだめ。泣きそう。

しかし容赦なくフランソワーズの耳にジョーの声が入り込む。
聞きたくなくても聞こえてしまうのだ。ジョーの声を、ジョーの声だけを拾ってしまう癖は昔からだ。


「――可愛いですね」
「あら、ありがとうございます」
「ちょっと触ってもいいですか」
「ええ、どうぞ」


えっ!?ちょっと待って。


思わず顔を上げ腰を浮かし――そちらを見ると。


「いやあ、本当に可愛いなあ。昔飼っていたのにソックリなんですよ」


ジョーは膝をついて彼女の足元にいる犬を撫でていた。
その犬は、クビクロそっくりだった。


「フランソワーズ、見て御覧。ソックリだよ」


笑顔で手招きするジョーに、フランソワーズはそっと目尻を拭うと笑顔を浮かべた。

「そうね、ジョー。本当に」

 

 

(オープンカフェでした)

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