「半分こ」
「おめでとうございます!!」 頭上でくす球が割れ、いつ現れたのか左右に並んだ黒服たちがクラッカーを鳴らす。 目の前に盆が差し出された。 「おめでとうございます。当店開業以来、一万組目のカップルです」 *** 横浜港開港150周年。 その記念イベントで、横浜市内のショッピングモールやデパート、アトラクションetcはこの時期ならではの特典を用意していた。先日、テレビで流れた特集でそれを知ったスリーは、元町に行きたいと可愛くおねだりした。 そんなわけで、今日は元町に来ていたのだが――もちろん、ショッピングをしていたのはもっぱらスリーで、ナインはただの荷物持ちだったのだけど。
目の前に舞う紙吹雪。
ファンファーレの鳴らないのが不思議なくらいだった。
否、もしかしたら鳴ったのかもしれない。自失していたナインには記憶にないだけで。
ならばスリーはどうだろうかと隣に目を向けてみる。が、おそらく彼女も呆然としているのだろう、目を真ん丸にしてぽかんとしていた。ナインは握ったままの手を少し引いて、庇うように彼女を自分の背側に導いた。
満面の笑みを浮かべた女性。派手な髪型で濃い化粧の。これで造作が残念ならば、ただただ虚しく思うだけなのだが、この女性は髪型や化粧に負けない、目鼻立ちの整った美人だった。
その美女が恭しく彼らに何かを差し出している。ローズピンクの唇がU字形になり、声が響いた。
ナインは、休日の横浜しかも元町なんて、絶対混むから、できれば行きたくはなかったけれど、スリーのおねだりがあまりに可愛くて――可愛くて、いつの間にか行くことになってしまっていた。
どうも彼は彼女が絡むと負けてしまうようだった。それは今に始まった事ではなかったけれど。
昼食にと入った老舗レストラン。
中々格式のある所のようで、予約もせずに入って大丈夫かななどと言いながらドアを開けた途端の出来事だった。