「――えっ!?」

「そういう顔してたもの」
「そ。そういう顔、って・・・」
「ひとりでニヤニヤしてたわ」

そ・・・うだったろうか。
ナインにはわからない。
が、もしかしたらそうだったのかもしれない。スリーとの「二回目」を想像していたのは確かだったから。

「この前から、そう。何だか時々、ジョーったらひとりでニヤニヤすることがあって・・・。何だかエッチな感じで嫌だわ」
「エッチな感じ、って・・・。そりゃ、僕だって男だし。そういうこともあるだろうよ」
「――でも」

あからさまな態度は取らないものの、それでも、気付くと熱い視線で見つめられていることがあり、あの日以来、スリーは落ち着かないのだ。
そしてそれが、ナインは自分に興味があってそういう風に見つめてくるのか、あるいは、自分との「行為」を期待して熱い視線を飛ばすのか、スリーにはその境界線がわからなかった。だから、余計に落ち着かない。
もちろん、「身体が目当てなの?」と訊くほど子供ではないつもりである。が、ちら、っとそう思ってしまうこともまた事実であった。

「何だかそういう目で見られるのって、嫌だわ」
「どうして」
「どうして、って――だって」

僕は別にそういう目で見てないよ、と否定してくるものとばかり思っていたので、あっさり肯定されて驚いた。
言葉が続かない。

「――あのさ」

ナインは少し頬を赤くして、困ったようにこめかみを掻いた。

「それって悪いことじゃないと思うんだけど」
「えっ」
「・・・フランソワーズとそうしていたいって思うのは悪いことだろうか」
「・・・・」

スリーにはわからない。

「フランソワーズは嫌?二度としたくない?」

直接的なナインの言葉に、思わず周囲を見回してしまう。レストランでデザートを食べながらするような話とは思えなかった。かといって、どこでだったら適当なのかと問われれば、それもやっぱりわからないのであるが。

「・・・こんな所でそんな話」

できないわ。と小さい声で返す。

「どうして。大事なことじゃないか」

一方、ナインは天気の話をするみたいな気安さである。

「もしかして君、僕が君の身体目当てだとか失礼な事、考えているんじゃないだろうね?」

スリーは答えられない。

「――全く」

ナインは息を吐き出すと、そのまま背もたれによりかかった。
しばらく無言でスリーを見る。

スリーは目を上げられず、手元を見つめたままだった。

「あのさ。――誰でもいい、ってわけじゃないんだよ?」

ナインの声が降ってくる。が、やっぱり顔を見られない。

「・・・僕はフランソワーズじゃないと嫌なんだけど」

スリーの手が震えて、スプーンが容器のふちにあたった。

「僕はそんなに気が多いほうじゃないし。好きな子を抱き締めたいって思うのが、悪いことだとは思っていない」

真剣な声が響く。

「もちろん、フランソワーズが嫌なら何もしない。一緒に出かけて外泊したからって無理強いなんてしないよ。そのくらい、わきまえているつもりだけど?」

何か言わなくちゃと思いつつ、それでもスリーは動けなかった。
ナインの顔を見られない。

「でも――うん。・・・いいよ。そんなに悩むなら、今回は見送ろう。別に僕はそういうつもりだけで言ったんじゃないし、この宿泊券はあくまでも景品であって絶対に使用しなければいけないというわけでもないし」

あくまでも真摯なナインの声だった。
ともかく、ふたりのことを真剣に考えてくれているのはわかる。

スリーはスプーンでクレームブリュレをすくうと、ナインに向かって差し出した。