「独り言」

 

 

好き。


大好き。


あなたの名前を呼ぶのがスキ。


振り向いてくれた時の、少し照れたような顔が好き。


黒い瞳に映る私。
それを見ると安心する。


ねぇ、ジョー?

あなたはどうなのかしら。


・・・なんて、訊いてみたくなるけれど、怖いから訊かない。
だってもし


僕は違うよ


って言われたら、どんな顔をすればいいのかわからない。


彼もおんなじ気持ちだったら、いいのに。

 

 

***

 

 

「バッカだなぁ」


こつんと額をつつかれた。

あれ?
私、いま口に出して言ったかしら?


「フン。君の考えてることなんてお見通しなんだよ」

僕は009なんだからな!と理由にならない理由で胸を張って威張るひと。
こういう時、どうして私はこういう妙に自信家なひとを好きになってしまったんだろうと悩んでしまう。

――でも。


「君はもっと堂々としていていいんだよ」


どうして?


「・・・あのね」


ジョーの横顔。
頬が少し赤く見えるのは気のせいかしら。

赤いマフラーが翻る。

 

 

***

 

 

フランソワーズの視線を痛いほど感じる。


・・・言えるもんか。

君の蒼い瞳に映る自分を見ると凄く安心するんだ、なんて。
そんなこと。

そんなこと――日本男児が言うことではない。

だって、そうじゃないと不安なんだって言ってるようなものじゃないか。

僕は009だ。
何も怖いものはないし、不安に思うことだってあってはいけないんだ。
それに大体、そんな歯の浮くようなこと。
彼女のように外国人だったら平気で言えるのだろうけれど、生憎僕は日本人だ。
日本男児の美学は、不言実行だ。キザなことを言うようには出来ていない。

不言実行なのだから。


・・・不言実行。


僕はフランソワーズを抱き締めた。

赤いマフラーが翻り、二人の身体に巻きついた。

 

***

 

「どうして私は堂々としていていいの?」
「さあね」
「教えて」
「ヤダね」
「だって、さっき言いかけたじゃない。あのね、って」
「そ。それはっ・・・」
「言いかけたら最後まで言わなくちゃ駄目でしょう?」
「そんなキマリはないよ」
「あら。ジョーが前に自分で言ってたわ」


う。
どうして昔のことをいま持ち出すんだ。
だから女っていうのは・・・


「・・・こうやって困らせるところだよ」
「困らせるところ?」
「そう。僕を困らせるのは、」

君しかいないさ。フランソワーズ。


と言う代わりに、僕は彼女の唇を塞いでいた。


言うもんか。


言わないぞ。


一生。


不言実行なんだから。

 

 

 

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