「なんだい、朝から機嫌が悪いなあアニキ。いったい何があったんだい?」
思い出しても気分が悪くなる。 「夢ってどんな?」
僕はセブンと頷きあった。 が、しかし。 「・・・でもさ、アニキ。スリーにそれとなく話して気をつけるように言わなくていいの?」 こんな話をしたらきっと彼女は怖がるだろう。 「うーん、でもさあ」 セブンが口を尖らせるのを睨んで制する。 「なあに?何のお話?」 言うなよ、とセブンを睨んだままコーヒーを受け取る。 「ジョーったら怖い顔。セブンもいったいどうしちゃったの?ケンカ?」 きょとんと見つめるフランソワーズは屈託無くセブンに笑いかけた。 「なあに、聞きたいわ」 軽く首を傾げて僕とセブンを交互に見るフランソワーズは何て可愛いんだろう。 「・・・勝手にしろ!」 僕はふいっと視線を逸らせ、ふたりが視界に入らないよう反対側を向いてコーヒーカップに口をつけた。 「なあに、どんな夢だったの?」 怖い夢とは言ってないぞ。嫌な夢を見たと言ったのに勝手に脚色するな。 「まあ!ジョーが怖いって思う夢ってどんなのかしら」 途端に不安そうになる声。 「そうなんだよ。だから、スリーも気をつけたほうがいいよ、ってそういう話・・・スリー?どうかしたのかい?」 泣かしたな、セブン。覚悟しろよ。僕はフランソワーズを泣かせるヤツは許さないんだからな。 僕はカップを置くと立ち上がった。 泣いているであろうフランソワーズをちらりと見て――
――見て、驚いた。
なんだ? 泣いてないし、・・・赤くなってる。
「・・・フランソワーズ?」
何で謝るのかわからないけれど、とりあえず謝った。 「ううん。その、・・・この話はほかではしないでね?」 ほかでするわけがない。 「だってその、・・・恥ずかしいから」 恥ずかしい? 「だって・・・」 フランソワーズはしばらくもじもじと手を握り締めていたが、僕の様子を窺うように顔を上げると小さく言った。 「・・・夢の解釈でね、誰かが死んじゃう夢っていうのは、そのう・・・夢を見たひとがその夢に出てきたひとのことをとってもとっても大事に思っているっていう意味なの」 ええっ? 「その、大事すぎて、いなくなったら困る、っていう・・・意味」 「!!」
なんなんだよこれは。 僕はソレと知らずにフランソワーズに熱い思いを告白してたとそういうわけか?
い、言うもんかっ。 って・・・セブン、何をにやにやこっちを見てる! 「へへん。アニキ真っ赤だよ?」 うるさいっ。 「駄目よ、ジョーをからかわないでセブン」 げらげら笑うセブンの声を背に玄関に向かう。 靴を履いていると、フランソワーズがやって来て、そして――僕の手を引いた。 「ジョー?もう帰るの?」 いられるもんか。 「顔、赤いのに」 うるさい、構うな。 「嬉しいのに」 「えっ?」 「夢って無意識だから、その・・・ジョーの気持ちが見えたみたいで」
けれどもフランソワーズは背を向けたりも困ったような顔をしたりもしなかった。 「――そういうジョーがいいわ」 と言った。
「そういうジョーが、いい」
|