「アヒルに会うということは」

 

 

「君ってこんな玩具が好きなのか。まったく、子供だなあ!」


ナインが手にしているのは黄色いアヒル。風呂等水周りで遊ぶものである。


「だって、可愛いもの」


にっこり笑うスリー。
そんな彼女にナインはアヒルをつきつける。


「だったら向こうで使いたまえ」
「嫌だわ、ジョーったら。その子はここに住むのよ?」
「はあ?ここに?」


ここはナインの家である。


「こんな女子供が遊ぶようなものを置けるもんかっ」
「いいじゃない。それ、私のだから」
「え?」
「ジョーにあげるわけじゃないのよ」


そう言うと、スリーはナインの手からアヒルを受け取った。
目の前に掲げてじっと見つめる。


「むこうにはちゃんとひとつあるもの。この子はこっちにいるの。そうすれば、ジョーのうちに来た時会えるじゃない」
「え。いやでも、それって・・・」


風呂場に置くのだと言ってなかったか。
ということはつまり「アヒルに会う」ということは風呂場に行くということになる。
風呂場に行く理由といえば、それはもちろん風呂に入る以外ないわけで。

ナインは混乱した。


だってそれじゃ、つまりそれって。


「・・・フランソワーズ?」


確かめるように名を呼ぶ。


「なあに?ジョー」


スリーはやや頬を赤らめると、それを隠すようにアヒルを目の高さに掲げた。

お腹を押されたアヒルの可愛い鳴き声だけが響いた。

 

 

 

 


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