「おあいこ」
「ねぇ、ジョー?」 欠伸まじりに言う僕に、フランソワーズは頬を膨らませた。 「違うもん!レイトショーなのよ?ほら!」 額に貼るみたいにチケットを突きつけられ、僕は軽くのけぞった。 「そんなんじゃ見えないよ・・・どれ?・・・・へぇ・・・」 あっさり言い捨てた僕にフランソワーズは唇を尖らせた。 胸を張って言った僕を値踏みするように眺め、そうしてフランソワーズはにっこり笑った。 ――やられた。 そんなわけで、これから恋愛映画を観ることになった。 ふん。 僕を甘くみるなよ。 映画の最中、油断したら――映画の内容なんてわからなくなるぞ。覚悟するんだな。 何しろ、レイトショーだから、・・・オトナの時間なんだからな。 *** *** 「ジョー。・・・おーきーて」 「・・・うん?」 なんだか周りが妙に明るくて、僕はしぶしぶ目を開いた。 おあいこさ。
声と同時に袖がつんと引かれた。
目を遣ると、微かに頬を染めたフランソワーズがいた。
「あのね。・・・映画に行かない?」
「映画?」
「これから」
「これから?」
ちなみに今は夜の8時である。
「福引で映画のチケットが当たったの」
「そんなの、セブンと行けばいいじゃないか。どうせ「まんが祭り」とかそういうのだろ」
確かにレイトショー限定のペアチケットだったけれど。
・・・恋愛映画。
「ね?行かない?」
「行かない」
だから、そういう顔するとキスしちゃうぞっていつも言って――は、いないけれど、思ってるんだぞ。
実行に移しちゃうぞ。
「もうっ、ジョーったら。ふふん。わかったわ。もう眠いのね?ジョーは」
「え?」
「そうよね。デート以外では夜10時には寝てるんだものね。まったくオコサマなんだから」
「なんだよ、夜10時って」
「だってそうでしょ?」
「いったいどこから出てきたんだよ。僕はいつも11時にコーヒーを飲みに来てるだろ?眠いわけがない!」
「良かった。だったら行けるわね?レイトショー」
僕の腕に巻きついて嬉しそうにしているフランソワーズ。
今のうちだぞ。
「なに?もう朝?」
「やあね。違うわよ。映画、終わったわ」
「・・・映画・・・?あっ!!」
「もう。すぐ寝ちゃうんだもの」
事態を把握するのに数瞬かかった。
「だめね。やっぱりオコサマだったわ、ジョーったら。さ、早く帰ってねんねしましょうね」
「・・・・一緒じゃないとねんねしない」
「何言ってるのよ。オトナなんだからひとりで寝なさい」
「イヤだ。僕はオコサマだから、ひとりじゃ寝れない」
フランソワーズと目が合った。
「・・・ずるいわ、ジョー」