「――帰るぞ」

ポツリと言って背を向ける。
そうして、さっさと歩き始める白い服のひと。
私は黙ってその後をついて行くことしかできなかった。

 

「・・・酒くさいな」

しばらく歩いてから言われる。その声は、感心しないな、と続けた。

「全く。僕が来なかったらどうなっていたと思うんだ」

いつもの怒っている声ではなかった。
静かに、諭すように言われ、私はただ「ごめんなさい」と言うことしかできなかった。

「大体、きみは無防備すぎる。あんなの、何されてもいいって言ってるようなもんだ」

ジョーは怒らない。
ただ、静かに言うだけだった。

――呆れられている。

無理もない。
私は確かに考えなしだった。

そんな私の行動で――さっきの彼を傷つけてしまった。
彼は何にも悪くないのに。
私の考え無しの思わせぶりな態度がいけないのに。

いま目の前を歩いているジョーにも――きっと、心配をかけた。

 

ジョーは怒らない。

 

いつもみたいに怒鳴らない。

 

ただ、静かに言うだけで――それは、私など怒る価値もないと思っているからで、呆れているからに違いなかった。

「・・・ごめんなさい」

視界が滲んだ。

足が止まる。

胸が――痛い。

 

ひとりでずんずん歩いて行ってしまうジョーと随分と距離が開いた。
でも、私の足は動いてくれなかった。
待って、と言うことも出来なかった。

鼻の奥がつんとして――地面にぽたぽたと涙が落ちた。

 

ジョーは気付かない。

振り返らない。

 

行ってしまう。

 

私を置いて。