「――ったく・・・」 呆れたような声と共に、ぐいっと手を引かれた。 滲んだ視界には、呆れ顔のジョーがいた。 「早く帰らないと夜が明けちまうぞ」 投げ捨てるように言うと、そのまま私の手を引いて歩き出す。 私はべそべそ泣きながら歩いた。 ジョーに手を引かれて。
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合コンて、こんな危険もあるなんて知らなかった。 私はやっぱり、何も知らないコドモだったのかもしれない。 だから、彼氏――ナインの事だ――がいると思われている私は、「ゴメン、間違って誘っちゃった」と言われた時に素直に頷くのが当然の行動だったのかもしれない。 そう思って――ふと、 ジョーはどうして行くんだろう? と思った。 ジョーは何度も何度も合コンに行っている。 ――ううん。そんなはずない。 でも、それなら合コンなんて行かないはずで・・・ わからなかった。 ――キス。 ジョーも誰かとキスしているのだろうか? 合コンに行った帰り道、さっきの彼のように甘い言葉を囁いたり、じっと優しく見つめたり、――肩を抱いたり、しているのだろうか? それともそれは、お付き合いしているひとにだけする事で――合コンでのジョーは、本当に「会食して帰ってくるだけ」なのだろうか? ジョーは、大事にしているひととだけキスを交わすのかもしれない。
・・・嫌だ。
そんなの、イヤ。
ジョーが誰かとキスするなんて。
勝手な片思いの私の涙は、ちっとも止まってくれなかった。
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「いい加減、泣き止めよ。――全く」 ジョーが足を止めて、呆れたように見つめる。 「もう怒ってないからさ」 怒ってない――確かにジョーは、さっきから怒ってはいなかった。 ジョーは、本気で心配した時は凄く怒る。 でも今は、怒ってもくれない。 考えなしの私に呆れて、怒る気もしないのだろう。 下を向いたままの私の頬に手をかけて、自分のマフラーで私の涙を拭う。
「・・・あのね、ジョー」 ジョーはふいっと視線を外し、あさってのほうを向いた。 「――僕はいつもまっすぐ帰ってるからなぁ・・・」 嘘。 まっすぐなんて帰ってない。 だって、必ずギルモア邸に寄って――
「――ともかく。酒くさいから、歩いて帰るのはちょうど良かったな」 そう言って、再び歩き出す。私の手を引いて。 ・・・そういえば。 「ねえ、ジョー・・・車はどうしたの?」 ここまでどうやって来たのか謎だった。彼のこの格好も。 「置いてきた」 山のふもとかどこかだろうか? 「家に」 思わず立ち止まった私に苦笑する。でも何も言わない。 「ホラ。――帰るぞ」 乱暴に手を引いて、ずんずん歩き始める。
「――きみはまだコドモなんだから、合コンなんて行かなくていい。まだ早い」 それは――そうかもしれない。 「二度と許さないからな」 「・・・ハイ」 悔しいけれど、素直に反省したので、小さい声で答えた。 「本当に、僕が間に合ったから良かったようなものの・・・」 そういえば、確かに物凄くタイミングが良かった。 ――なぜ? その横顔を見つめてみるけれど、黒い瞳がこちらを見ることはなかった。
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結局、その夜は延々と歩いて帰り、ギルモア邸に着いたのは夜が明ける直前だった。 ギルモア邸に着いて最初に目に入ったのは、ジョーのオープンカーだった。 思わずジョーの顔を見ると、怒ったような怖い顔をしていた。 家の中に入ると、私はずっと歩いてきた疲労と、残っていたアルコールのせいで眠くて眠くて仕方がなくなった。
だから―― どうしてジョーの車がナナメに止められているのか、 どうしてあのタイミングでジョーがあの場所に現れたのか、 ――などという疑問は、先送りになってしまった。 ただ私の頭には 「二度と許さないからな」 というジョーの声だけが残っていた。 眠りにつくまで、ぐるぐると繰り返し繰り返し――
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