「次は何を買うんだい?」
「白菜」
「ん。ネギは?」
「まだあるから大丈夫」
「しいたけは?」
「それも大丈夫」
「了解。てことは…八百屋が最後だな」
「ええ」
ナインは既に食材でいっぱいのエコバッグを持ち替えるとスリーの手を掴んだ。
思った通り冷たかったから、眉間に皺を寄せた。
「フランソワーズ」
声が険しい。
「寒いの我慢するなって何回言えばわかるんだい?」
「え。寒くないもの」
「嘘つくな。冷たいじゃないか」
「それは、手袋をしてなかったからたまたまよ。体は暖かいもの」
「ふん。手袋はどうした」
「……忘れてきちゃったのよ」
消え入りそうな声での報告を聞くと、ナインはわざとらしく大きく息を吐いた。
「…ったく」
「でもね、お買い物をするときは手袋なんてしないのよ。ほら、小銭とか出しにくいし」
「そうかもしれないが、しかしだな」
「商店街でのお買い物だもの。何度もお財布開くのよ?」
「う…ん。まぁ、」
確かにスリーの言う通りだろうとは思う。が、それとこれとは違う話のはずである。
買い物の効率とスリーが寒さを我慢するのは関連性がない。たぶん。
「ね?だから大丈夫なの!」
手を振りほどこうとするスリーに軽く鼻を鳴らし、ナインは自分のジャケットのポケットにスリーの手を掴んだままの手を突っ込んだ。
「ジョーったら!」
「いいから」
「やあよ、恥ずかしいわ」
「何が」
「だって、知り合いばかりなのよ。このへんのお店のひと…」
「何か困るか?」
「そ…」
それは。
ただ恥ずかしいという以外には何も無かった。
そしてそれは自分が我慢すればいいだけのこと。
ちらりと窺うナインの横顔は別段困っている風でも恥ずかしがっている風でもないのである。
むしろこういう行為を当然と思っている節がある。
――だけど。いつも行くお肉屋さんの前を通るし、魚屋さんだって……それにこれから行く八百屋さんだっていつも行ってて……
考えるだけで顔が熱くなってくる。
ナインと一緒に歩いているのが恥ずかしいのではない。こうしてくっつきすぎているのが問題なのだ。
これではまるで「私たちは恋人同士よ!」と宣言しているのと変わらない。
――もうっ。明日からどんな顔してお買い物に来ればいいのよっ……
「フランソワーズ。どうかした?」
「別にっ」
つんと唇を尖らせて。
でも。
「…あったかい……」
「うん?何か言った?」
「――別にっ」
からかうような、それでいてどこか得意そうなナインの横顔。
さきほどより確かに温かい手のひらを感じながら、スリーは改めてナインの手を握り締めた。
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