「嫌なジョー」

 

「へーえ。あの子がハリケーンジョーの?」

 

悪意にまみれた笑いと言葉がまともにこちらに投げられた。
振り向きもせず、聞こえなかった振り。
それが気に入らなかったのか、ひそひそ笑いとはおせじにも言えない笑い声が更に大きくなった。

・・・気にしない。


「ふうん。あんな子供っぽい子がねぇ」
「どうやってたぶらかしたのかしら」


・・・気にしない。
何を言われても気にするなってジョーが言ってたもの。

だから、気にしない。


「でも、気晴らしにはいいんじゃない?彼の回りにいないタイプだし」
「それにしても、よぉ」


パドックに来たのは初めてだった。
そもそもジョーのレースを観に来るのも初めてなのだ。
初めて尽くしで、私は少し緊張していた。
そんな中、背中にぶつけられた嘲笑だった。

・・・気にしないわ。

だってジョーが言ってたもの。何を言われても信じるな、って。
僕の言葉だけを信じろ、って。
だから、知らないひとの言うことなんか信じない。

信じないもん。


「ふうん。今度はああいうタイプなんだ。この前までほら、グラビアの」
「ああ、彼女ね。ナイスバディが好みかと思って頑張って寄せて上げたのに」


・・・グラビアのひと?


私は思わず自分の胸元を見つめた。
もうちょっと、寄せて上げてくれば良かったかな。
帰りに買って帰ろう。


「フランソワーズ」


ジョーが顔を出した。
背後の彼女たちは急におとなしくなって、頑張ってくださいなんて言っている。
ジョーは軽く会釈するとこちらを向いた。
促すように私の背に手を置いて、奥に戻る。


「少し時間が空いたからね。どう?退屈してない?」
「ううん。大丈夫よ」
「そう?何だか元気ないな」
「そんなことないわ。ジョーのレースしてるの見たことなかったから、嬉しい」

それに、レーシングスーツ姿がかっこいいし。

「ううん。あまりレースは見せたくなかったんだけどね」
「あら、どうして?」
「いや・・・乱暴だし、うるさいし。それにあまり一緒にいられないし」
「ジョーったら」

くすくす笑うとジョーも笑った。

「良かった、やっと笑った」
「・・・ねぇ、ジョー」
「うん?」
「私の胸って小さいわよね?」
「え?」
「キャンペーンガールのひととか、グリッドガールのひととか、みんなスタイルがいいし。ジョーは見慣れているでしょう?」
「見慣れてる、って・・・フランソワーズはバレリーナなんだから、気にしなくても」
「でも、見慣れてるジョーから見たら、その・・・」


再び自分の胸に目がいってしまう。
そんなの、今まで気にしたことなかったのに。


「・・・あのさ」

ジョーが足を止める。
そうして、少し斜め上のほうを見ながら言った。

「・・・それも含めて楽しみだからいいんだ」


楽しみ?


ジョーの頬が赤い。


「その、僕が大きく・・・するから」


私はどうやってそうするんだろうと首を傾げかけて、はっと気が付いた。


「もう、・・・嫌なジョー」