−1−
――失敗した。 まず、そう思った。 痛みに頭がぼうっとなる。 たまらずよろけた身体は簡単に蹴倒され、背中を踏みつけられた。 もう、限界だった。 私はどうなってしまうんだろう? また――怒られるのだろうか? ぼうっとした意識のなかで考える。 きっと怒られるのに違いない。いつものように『女の子なんだから無理するな馬鹿』って。いつものように。
***
潜入捜査だった。 ある日、ギルモア邸に駆け込んできた男性。ラボから逃げてきたという。 ともかく、その施設に行って調査をしよう。 そう言い出したのはナインだった。それにのったのはいつもの如くセブン。 潜入したのはいいものの、最初から不穏な気配は消えなかった。 透視ができなかった。 どんな材質で作られているのか、どこも、どんな壁も見通すことができなかったのだ。 音が聞こえればそちらが気になるし――重要区域らしいということも想像できる。たとえそれが罠だとしても、それを確認する術はない。だからそれにのるしかなく――結果、いともあっさりと捉まってしまった。
***
髪を引っ張られ、無理矢理に身体を起こされる。 「――ふん。こうもあっさりゼロゼロナンバーサイボーグが手に入るとはな」 ――罠だった。 霞がかかったような意識の中、何人の声なのか判然としないけれどもどうやら私たちが罠にかかったらしいということはわかった。 ・・・ブラックゴーストと何か関係があるのだろうか・・・? ――臓器売買。 ――人体実験。 それらの単語は、ブラックゴーストと非常になじみがよく、違和感は全く感じなかった。 どうして気付かなかったのだろう。 悔やんだところで状況は変わらない。 「――だから、解剖するのはまだ待て」 私を無視して勝手に話が進んでゆく。 片目。 摘出。 私の眼を――調べる? 「しかし――」 髪がぐいと引かれ、まじまじと見つめられる。 「・・・ふむ。この目がニセモノだとはとても思えん・・・」 そのまま手が伸びて、眼のふちをなぞるように指が動く。 「――信じられん。いったいどんな方法で・・・」 ぼやけた視界に映るのは、白衣姿の男のひとたち。 相談している白衣の人物。私から注意が逸れた。 チャンスがあるとすれば、今だ。 痛みを堪え、彼らの様子を乱れた髪の間からそうっと窺う――と。 途端に、背骨に響く激痛。 声もなく崩れ落ちる。 「――ったく、油断も隙もないな。――おい。妙なコトを考えるなよ。ここには誰も来ない。他のサイボーグも既に捉えてあるんだからな。助けはこないぞ」 そんな――ナインが捉まった? まさか。 更に、二度、三度と背中を何かで容赦なく殴られる。痛みに声もでない。 ――ジョー。 涙で滲んだ視界に彼の顔が浮かぶ。 ――逃げて。 私はどのみち、もう助からない。 それだけなら、まだ、いい。 その前にナインを捉まえるための囮に使われる。 だったら。 私はナインを捉えるための道具になんか、絶対にならない。
|