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「右ナナメ前方に5人。左は10人。――階段を使うしかなさそうよ」
「わかった」

ナインは私の言葉に小さく頷くと、目の前にいる相手を睨みつけ――そうして、相手が何かを起こそうと動作を始めた瞬間、私の手を掴み、腕が抜けるくらい凄い勢いで右ナナメ前方へ殺到した。

 

***

 

私たちは包囲されていた。

敵の中枢部に入り込み、壊滅状態に陥れたものの遅れてやってきた増援部隊に囲まれてしまっていた。
彼らは、とある武術の達人。なんの武術なのかは知らない。けれども、ナントカ会という怪しげな団体であり、手をかざすだけで相手を飛ばせるのだという。これは宗教のひとつなのだろうか?いずれにせよ、彼らはそんなわけで飛び道具はいっさい持ってはいなかった。ただ己の身体のみが武器だった。

ナインは片方の眉をぐいと上げて――馬鹿にしたように嗤った。そんなものが通用すると思っているのかと。啖呵を切った。そして、実際にナインにそんなものは通用しなかった。
――けれど。
多勢に無勢は如何ともし難く――しかもナインには「私」というお荷物までいるのだ。

「これは三十六計しかないな」

肩を竦め、明るく言うとナインは私に「手薄なところを教えてくれ」と訊いてきた。
それが、右ナナメ前方なのだった。
ここは地下であり、唯一の退路は敵の背後にあった。右ナナメ前方にあるそれは、地上へ続く階段であり――おそらくそこも包囲されているのに違いなかった。
けれど。
私に見えるのは――そこが一番手薄だということ。
おそらく、正面突破するわけがないと踏んでのことだろう。
私たちはそこを通るしか助かる方法がないのだった。