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ナインは最初、左手で私の腕を引き右手で敵をなぎ倒し活路を開いた。

けれども。

階段は狭く、敵を倒しつつ駆け上がるのは不可能だった。
少しでも登る速度が落ちれば、背後からの追っ手に捕まってしまう。
何より、階段の両脇に立っていた奴らが防戦一方の私たちを襲うことはあまりにも簡単なことだったのだ。

「くっ・・・!」

ナインが私の肩を引き寄せ、腕のなかに抱き締めた。
肩を抱いて、更に頭を庇うように。自分の身体を盾にして、全ての方向からのどんな攻撃にも私が晒されないよう抱き締めた。
その間にも、攻撃の手は緩まない。
ナインは防戦のみで、最早反撃できるような余裕はなかった。何しろ、腕の中に私というお荷物がいるのだから。

鈍い音がした。
ナインの動きが一瞬止まる。
私はナインの背中越しに透視をし――背後からの敵が鈍器のようなものを振り回しているのを目の当たりにした。
まさか、それでナインを殴ったの?
けれどもナインは、何事もなかったのように歩を進めていた。

そうして、今度は横から頭を殴り飛ばされた――が、私を抱いている腕は緩めない。盾にしている身体も揺らがない。
すぐさま体勢を立て直し――が、それも一瞬のこと。
前方から、背後から、左右から。
全ての方角からナインに攻撃が仕掛けられ・・・成す術もなく膝を折った。

「ジョー!」

たまらず名を呼んだ。
私を置いて逃げて、と続けようとしたけれど――言えなかった。
何故ならナインは私を離すことなどまるっきり考えていないみたいに、私を自分の身体で覆い庇ったまま動かない。
容赦なくナインに加えられる攻撃にも、ただじっと耐えている。

「ジョー、離してっ」

身じろぎするけれども、離してくれない。
物凄い力でナインの胸に押し付けられていた。だから、わかってしまう。ナインに加えられる攻撃の酷さが。
一撃一撃を受ける度に、振動するナインの身体。
それでも、がっちりと私の身体を包み込み完全に防御してくれている。

「ジョー!」

このままじゃ・・・ジョーが死んでしまう。

 

***

 

誰か、

 

誰か、来て。

 

ジョーを助けて。

 

パニックになった。

 

「――フランソワーズ。大丈夫だから」

耳元で、小さく囁かれる。

「大丈夫。助かるから――もうちょっと我慢して」

そう言って、微かに――笑ったようだった。見えはしなかったけれど。だけど、ナインの声がいつもの調子だったからわかった。

「だって、ジョー・・・」
「大丈夫だ。僕がそう言ってるんだから信じろ」

私のパニックは彼の声で瞬時に収まった。

「そう・・・いい子だ」

私は、少しでも彼の負担が少なくなるように身を丸くして彼の身体に隠れるように小さくなった。