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どうして「戦士」としてみてくれないのだろう。

じっと見つめるナインの黒い瞳を避けるように、下を向く。

いつもいつも、「女の子なんだから」と言うナイン。
でも私は、女の子である前に「003」という名のサイボーグ。

だから、みんなと一緒に戦いたい。ひとりだけ後方にいるのなんてイヤ。
ちゃんと、一人でも戦えるようになりたい。
ナインに――ジョーに、迷惑をかけたくない。

私が言葉に詰まっていると、

「迷惑かけていいんだよ」

さらりとジョーの声が言った。
私いま、口に出して言った?

「いいんだよ。それこそ湯水のように、浴びるようにかけてくれ」

真面目な声で変な例えをするから、思わずジョーの顔を見てしまう。
ジョーは至って真面目な表情で――私と目が合うと微かに微笑んだ。

「戦う機械は、僕ひとりでいい」

 

――戦う機械。

 

放たれた言葉の刃は、いとも簡単に私たちを貫き通し、返す刀で更に傷を抉る。

「僕はそう簡単に死ねない。そう造られている。だから、戦い続けるのが僕の存在価値なんだ」

それは違う。
思わず、そう言いかけた。
でも、ジョーは構わず続けた。

「だから・・・頼むから、やめてくれ。君が前線に出て行ったら、僕の存在価値がなくなってしまう」

存在価値?
そんなの、戦うことだけなわけがない。違うわ、ジョー。あなたは間違っている。
だって、私はあなたに居て欲しいもの。
ずっと――ずっと。
私のこの身体が動かなくなるまで。――ずっと。
だから、あなたを危険な目に遭わせたくない。
だから、もっと強くなりたい。

「フランソワーズ。聞いてる?」

聞いてなんかいなかった。
だって、あなたの存在価値が戦うためだけなんて・・・そんなこと、絶対に、無い。

「僕は君を――ああ、もうっ!」

急に強く抱き締められた。それこそ、戦闘中のように。

「――ジョー?」
「動くな」

・・・敵襲?
ジョーの緊張した声に、思わず空を仰ぐ。――戦闘機がこちらに向かっているわけではないようだった。

「動かないで聞いてくれ」

ジョーは私の肩を、私の頭を抱き締め――この距離だからこそ聞こえるくらいの、小さな小さな声で言った。

「僕は君を守るために戦っている。だから、戦う機械で在ることを決めた」

耳元で囁くように言うジョーの声は、聞き慣れなくて――何を言っているのか理解するのに時間がかかった。

「だからフランソワーズ――君は、ならなくていい」
君は戦う機械なんかではないんだ、絶対に。

そう何度も繰り返すジョー。
私は――ジョーが何かとっても大事なことを言っているのだろうとは思っていたものの、この状況でどうすればいいのかわからずただ混乱していて――彼の言葉をちゃんとは聞いていなかった。
呆然と思考が停止したままの私をそうっと身体から離し、じっと見つめてくるジョー。

「いいんだよ。僕が好きでしている事なんだから。それに」

そっと私に回していた腕を離す。そのまま、私から視線を逸らし――目の前に広がる海を見つめる。

「――戦わせたくない」

それっきり、黙った。
こちらも見ない。
ただ、海を見つめている。

――でもね。ジョー。

私は心の中で彼に話しかける。
いま、彼に何を言っても聞いてはもらえない気がするから。

――やっぱり私は、後ろで守られているだけ。っていうわけにはいかないの。
だって。
あなたひとりを戦う機械になんてさせない。
あなたは機械なんかじゃない。

だから。

あなたのために強くなりたい。
あなたが、一人で戦わなくてもすむように。