「史上最大の任務」 


今までの、過去における「009」としてのミッションの中でも、今回は最も重要かつ慎重を期さねばならないものだった。

セブンからその知らせを受け、僕は研究所に直行し――そして今回のミッションに、単独で挑むことにしたのだ。
最初はセブンも同行するといってきかなかったが、その任務の重要性と難しさ、そして必ず成功させなければならない事を考え合わせると、その特殊性と時間帯の問題から、僕ひとりである方が有利だと説得した。
セブンは不満そうだったが、最後には納得した。が、それでも残念そうに、何度も何度も僕に念押しをした。
必ず成功させろと、この僕に。
言われるまでもない。
この僕が、この任務を失敗するはずがない。

 

***

 

潜入先は、先日開店したばかりのこじゃれたフレンチレストランだった。
僕は偵察する対象から適度に離れたテーブルを確保し、十分に観察しながら食事をするフリをした。
一応、ディナーをオーダーしたものの、喉を通るはずもない。全く湧かない食欲に、皿をつつくだけだった。
シェフが慌てて「お口に合いませんか」と心配そうにやって来たので、僕は仕方なく、それ以降の料理を口に押し込んだ。
もちろん、味わう余裕などない。機械的に咀嚼と嚥下を繰り返すのみだった。

それにしても――捜査対象はよく喋り、よく食べ、そして――楽しそうだった。
全く何の警戒もしていない。
言うなれば――あまりにも無防備だった。
いっそのこと、さっさと確保して身の安全をはかってしまおうかとも思ったけれど、冷静に考えればこのまま何も起きないという事もありえるため、僕はじっと成り行きを見守ることにした。今、いたずらに現場に踏み込むのは得策ではない。

 

動きがあった。

男3人が席を立ちトイレに向かったのだ。
僕はそっと後をつけた。

案の定――談合だった。

僕は何食わぬ顔でトイレに入り、対象となる男の顔を記憶した。間違ったら目もあてられない。
とはいえ、散会してから何事もなければ――そうであることを願うが――ミッションはその時点で終了だ。

しかし、そうはならなかった。やはり、そう甘くはない。

男3人は、それぞれ3組に分かれ各々車に乗り込み店を後にした。
そう――彼らはアルコールを一滴も口にしていなかったのだ。それは、このために違いなかった。自分で車を運転するという、主導権を持つための。

僕は先刻顔を記憶した男の車を尾行した。時々、加速装置を使いながら。

後をつけながらも、僕は――このまま何事もなければ、それでいい、と思っていた。
――何事もなく。
が、そうもいかないであろうことも予想していた。いや、むしろ、そうならない事の方が自然の流れだからだ。

そして車は予想通り、行くべきルートを外れ始めた。
僕は頬の内側を噛み締め、後を追った。