走行中の車中の様子はよくわからない。
ただ――何やら楽しげな雰囲気だけは伝わってきた。
全く無防備の対象。
おそらく、車がルートを外れているという事にも気付いていないのであろう。

小高い丘の、夜景を見下ろす展望台の駐車場に車が入ったのは、かれこれ一時間あまり走ったあとだった。
先程の店からかなり離れており、ひとけも無く寂しい場所だった。街灯もなく、辺りは闇に包まれている。
ライトを消し、車内灯も消えたまま、車は沈黙した。乗っている者が降りて来る気配も無い。

 

・・・最悪だ。

 

僕は中の様子を窺いながら、いつでも踏み込めるように気持ちを落ち着けた。
ここで、頭に血を昇らせてしまったら、成功するものもうまくいかなくなる。そうなるわけにはゆかなかった。
何しろ、このミッションは失敗が許されないのだから。

闇の中にひっそりと溶けている車体を見ながら、僕は言いようのない虚しさと怒りと不安に襲われていた。

 

夜景は確かに綺麗だった。
しかし、僕はそれを見つめるわけでもなく、ただひたすら車内の様子に気を配る。
が。
先刻から、次々と襲う虚しさと怒り――不安は、消えることがなく僕を悩ませた。

――なぜ僕はここにいるのだろう?

ミッションを遂行するとはいっても、要は――何も起きなければ何もしないわけだし、あるいは――何かが起こっても、それが対象にとって苦でなければ、僕が手を出す場面ではないのだ。
こうしてじっと――身を潜めているしかない。

何もせずに。

気配も悟られずに。

 

――どうして僕はここにいるのだろう?

 

ここで・・・見たくもないモノを見て、確認するためだけにいるのだとしたら。

 

・・・僕は。

 

 

 

助手席でシートベルトを外そうとする気配がした。が、外れない。

重なる人影。

逃げる。――追う。

――避ける。追う。――逃げられない。

 

 

僕はもう何がどうでもよくなり、飛び出していた。