全く君はどうしてそう無防備なんだ。
見知らぬ男の集まる所に出かけて行って、食事して酒を飲んで、その後まっすぐ帰れるとでも思っていたのかい?
考えが甘いんだよ。僕がいなかったら、どうなっていた事か・・・!
君はまだ子供なんだから、そんなのはまだ早い。
食事してみたい店があるなら、僕が連れて行く。君が行きたい所ならどこでも。
例えば今日だって、迎えに来いとひとこと言ってくれれば僕はいつでも――どこでもすぐに、君の元へ行くのに。

セブンから聞いた時は耳を疑った。事実だと知って血の気が引いた。比喩ではなく、本当に。
そんな事がある訳がない。
あっていいはずがない。
君が――僕以外の男と会うなんて。

だけど、君が楽しんでいるならそれでいいと思っていた。楽しそうに笑う君は、本当に可愛かったから。
可愛い君の、可愛い笑顔。
――しかしそれは、僕に向けられたものではなかった。

僕はそれを遠くから見ていることしかできなかったんだ。

 

「・・・ごめんなさい」

小さな声がして、思わず振り返った。
僕は今、怒りを君にぶつけてはいなかったはずだ。君を叱るなんてことより――無事だったことの方が重要だったから。
足を止めた君は、真っ赤な顔をして大粒の涙をこぼしていた。

「ごめんなさい。・・・ナイン」

その顔があまりにも可愛くて――可愛くて、僕は思わず抱き締めそうになった。

けれど。

――駄目、だ。

いま彼女に触れたら、僕は二度と彼女を離せなくなる。
独り占めしたくなって。
ずっとそばに居て欲しくなって。
歯止めが利かなくなってしまう。

だから。

僕はただ手を握りしめ、再び歩き出した。半ば乱暴に彼女の腕を引き寄せて。

 

帰る道すがら、車はどうしたのかと聞かれた。
――車?
車なら、ギルモア研究所に置いてあるよ。車庫入れをミスって、みっともなく玄関前に止まってる。
ライトを消したのか、ドアは閉めたのか、そもそもキーを抜いたのかどうかも覚えていない。きっとセブンが何とかしているだろう。

 

***

 

研究所に着いて、僕は口の中で悪態をついた。
ったく、セブンの奴。車をそのままにしておくというのはどういう了見だ。

ナナメに止まっているオープンカー。

彼女――スリーは、僕に手を引かれながら不思議そうに車を見つめていた。そして僕の方を見て。
でも何も言わない。

果たして彼女は、その意味に気付くだろうか。

僕が一体、どのくらい慌てていたのかを――何故、慌てていたのかを。

そして

僕がずっと――君を尾行していたことを知ったら、どう思うのだろう。

でも、スリーは何も言わない。

「・・・スリー。眠い?」
「ん・・・ちょっとだけ」

もう寝るね・・・と言い残し、自分の部屋に向かった。

 

彼女は何か気付くだろうか?

 

それとも――気付かないだろうか?

 

僕は、さっきまで彼女の手を握っていた手を見つめた。
彼女の手の温かさを思い出すように。