「可愛いひと・2」

 

−1−

 

「何してるんだ!寝てなくちゃ駄目だろう!」

ドアを開けた途端に怒鳴られ、そのまま2階へ運ばれてしまった。
抵抗する間もなかった。

私をベッドに寝かしつけてから、

「――全く、油断も隙もない。こうして毎日、見張りに来ないといけない僕の身にもなってみろ」

大威張りで言い放つ。

「別に頼んだわけじゃないわ」

上掛けの中で言ったのに、耳聡いナインは聞き逃さなかった。

「またそういう可愛くない事を言う。――可愛くしてろと何度言ったらわかるんだ」
「だってもう大丈夫だもん」
「大丈夫じゃないだろ?ホラ、まだこんなに腫れて」

言いつつ、こわごわと私の頬に手を伸ばし、患部にちょんと触れた。
その瞬間、痛そうな顔をしたナイン。

「――痛むだろう?まだ」
「う・・・ん」

ここで「平気よ」なんて言おうもんなら、ますますナインのお説教が続きそうだったので仕方なく嘘をついた。
確かに、まだ頬の内出血斑は残っている。けれど痛みはもう殆ど無いのだ。むしろ身体の方が重症で・・・。
けれど、さすがにナインもそこまでは見ない。だから知らない。
いま目に見えるのは頬の痣だけだから、ナインはそこばかり心配する。

私が口ごもっていると、ナインは慣れたようにベッドサイドに椅子を置いてどかりと座った。
いつものように。
そうして、にっこり笑ってこう言った。

「何か要るものがあったら言ってくれ。ここにいるから」