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あの日以来、ナインは毎日やって来て、そうしてずうっとこうしている。
私のそばに。

本人曰く、「見張ってないとどんな無茶をしでかすかわからない」のだそうだ。

確かに、動くのが辛かった時期はナインがそばに居てくれて随分助かった。
喉が渇いたといえば飲み物を持って来てくれる。
食事だって、シックスの作ったものを運んできてくれる。
ほんの少し身動きしただけで心配そうに駆け寄り、あれこれ世話を焼いてくれた。
眠るまで、頭を撫でていてくれたときもあった。
だから私はいつも安心して――夢も見ずに眠ることができたのだった。

それは本当に助かったし嬉しかったのだけど。

だけど今は、もう自分で歩けるし、痛みも気にならなくなってきたし・・・むしろこうしてずっとそばに居られると落ち着かなかった。
しかも、ナインは本当にそばに「居る」だけで、大抵は持ってきた本をずっと読んでいるだけなのだ。
何を話すでもなく。

 

・・・落ち着かない。

ナインの存在が。

 

暴行を受けた直後は、私は痛みと痛み止めの注射のせいで半分朦朧と過ごしていた。だから、ナインがそばにいてもそんなに深くは考えたりしていなかった。
だけど、冷静に考えてみたら――それってかなり・・・落ち着かないことだったのだ。

 

ナインがそばにいる。

ナインの気配がする。

 

それって普通の日常なんかでは絶対に、ない。

 

呼べば答えてくれるくらいに近くに居るナイン。

・・・呼ばなくても、ナインの方を見ただけで「何?」と優しく答えてくれるナイン。

 

それって――

 

――そんなことって・・・・

 

私は状況についていけず、結局、毎日熱を出してしまっていた。

ううん。

違う。

熱を出していたわけじゃない。

ただ、鼓動が速くなって、顔が熱くなって、手が震えて・・・どうしていいかわからなくなってしまっているだけ。
なのに、勝手に誤解して「熱があるじゃないか!」と大騒ぎするナイン。
ナインが「スリーは毎日熱が出ているから、重症なんだ!」と言うから――私は熱が出ていることになっている。