「今日は楽しかったよ。――ありがとう」

――本当に?

ささやかなお誕生会だった。
それこそ、ありあわせのものしかなくて、冷蔵庫と相談して、何とか――ナインの好きなものを作るのに成功した。ケーキはセブンに買いに走ってもらって。後から、シックスが大量のごちそうを持ってきてくれたので助かった。

帰るナインを見送りに玄関口まで来ていた。
ナインの車は出てすぐの所に停められている。

「うん。本当に楽しかったよ」

やだ。私、声に出して訊いていた?

「――そんな顔しなくても」

ナインは私のおでこをちょんと突いて笑った。

「急に来た僕が悪いんだからさ」

 

そう――確かにそれは事実だった。
だって、本当は・・・ナインは他のひととお誕生日を祝っているはずだったから。
そう一週間前に聞いてから、私はナインのお誕生日なんてどうでもよくなってしまったのだ。
だから、何にも準備してなかった。
ケーキも。
花も。
ごちそうも。
何もかも。

そうして、今日という日がさっさと通り過ぎるのを待っていた。ひとりで。部屋にこもって。
なのに。
「ごめんごめん。予定が変わってさ。今晩、夕ごはんを一緒に食べてもいいかな?」
悪びれずにそんな事を言って突然やってきた。何にも用意してないのに。
セブンが気を遣って、あれこれ動いてくれたので――急ごしらえだけれども、何とかお誕生会ができた。

 

「ごめんね。急に来て。だけど」

微かに頬を赤くするナイン。

「――嬉しかったよ。ありがとう」

お礼を言われる筋合いなんてなかった。だって私は何にも――

俯いた私を持て余したのか、「じゃ、帰るね」と言ってさっさと車へ向かう。

「あの、――待って」
「ん?」
「あの、・・・プレゼントもなくて、その、私」
「いいってば」

ナインは笑って言った。

「そんなの。今日、お祝いしてくれただけで僕は嬉しいんだからさ」
「だけど」

くすりと笑って、ナインはひらりと運転席に着き――

「ジョー、待って」
慌ててドアに手をかける。

「待って――お休みなさい」

・・・・・。

「――っ!!」

ナインが真っ赤になって身を退いた。

「な、何を・・・っ」
「何って・・・お休みのキスよ?」

「そ、そんなの」
頬を手で押さえながら。

「こ、子供のすることじゃないだろっ!」
「ん――?フランスではみんな子供の頃からするけど?」
普通の、ただの挨拶なのに。

「ば、ばかっ。子供は早く寝ろ!」

真っ赤になって、こちらを見もしないでさっさとエンジンをかけて――

「おやすみなさい。気をつけてね」

私の声に、一瞬ちらりとこちらを見つめ――急発進して行ってしまった。

・・・変なナイン。

 

明日。
ナインのところに行こう。
プレゼントと、彼の好きなおかずの入ったお弁当を持って。お花も買って。
今日は、自分のつまらないヤキモチで――ちゃんとしたお誕生会をしてあげられなかったから。

ごめんね。

お誕生日おめでとう。ジョー。

大好きよ。