「怪談?」
「お化けが怖い?……まったく、君は子供だなあ!」 ナインがスリーの頭をぐりぐり撫でた。 「違うわよ、もうっ」 髪がぐしゃぐしゃだわ、と唇を尖らせスリーが言う。 「そうじゃなくて。ジョーって実はお化けが苦手なんじゃない?って訊いたのよ」 ナインの弱味を見付けたわといわんばかりの笑顔に、ナインは胸の裡で息をついた。 そう、僕はお化けが怖いんだ。 そう言ってみるのも楽しいかもしれない。 あるいは、僕はお化けなんて平気さ。なんなら、もっと怖い話をしてやろうか?とからかってみるのもいい。 そう思って、そんな光景を想像してみた。 けれど、すぐに楽しくなくなった。 もしも本気でナインが怖い話をしたら、きっとスリーは泣くだろう。その泣き顔は可愛くて好きだけれど、本気で怖がらせるつもりは毛頭ないのだ。 「……とうとうばれてしまったか。参ったなあ。きみには全部わかってしまうんだね」 力なく肩を落として言うナインにスリーの顔が輝く。 「そうよ!ジョーのことなら、私はぜーんぶ知ってるんだから!」 えっへんと胸を張るスリー。なにやら得意そうである。 「そうか。じゃあ、実は夜道が怖いことも知ってるんだね?」 そうだったかしらとスリーが首を傾げる。 「良かった。だったら今度からは、やせ我慢することないな」 ナインは落ち込んだような顔で頷いた。 「だったら、そう言ってくれればいいのに」 力付けるように、スリーはナインの手をぎゅうっと握った。 「私がついてるじゃない」 ゆびきりげんまん。 ナインに笑顔が戻って、スリーも一緒に笑顔になった。 *** ――まったく。 そんな心配をしていたところに、上手い具合に使える話題が降ってきた。 スリーはきっと、気付いていない。 そう……きみはいつでも、僕を呼ばなければいけない。 *** 夜道が怖いのはナインなのに、なぜ自分が夜道を歩くときにナインを呼ばねばならないのか。 幸いにもスリーは全く気付いていなかった。 「ジョーったら。一緒に歩いてくれなんて甘えん坊さんなんだから!」
「僕が?まさか。いったい、なにを根拠にそんな仮説を立てたんだい?」
「別に根拠はないわ。女のカンってところかしら」
「女のカン、ねえ……」
「ね。どうなの?」
「どう、って言われても僕は別に」
「ほら。ほんとは怖いんでしょう」
さていったい、どうしたものか。
スリーはきっと、きゃあきゃあ喜んで怖い話をするだろう。
自分のほうこそお化けが苦手なくせに、鬼の首をとったようにはしゃぐからオシオキだ。
ナインはそんな彼女に笑いを押し殺すと、至って真面目な顔で言った。
「えっ?……ええ……?」
「……怖いの、我慢してたの?」
「実はそうなんだ」
いつになく弱気なその様子に、今まで面白がっていたスリーは心配そうな顔になった。
「でも、そんなオトコってイヤだろう?夜道が怖いなんて、さ」
「そんなことないわ。人間だもの、怖いもののひとつやふたつ、あって当然よ」
「うん……そうだったね。じゃあ……今度から、呼んでもいいかな」
「もちろんよ」
「良かった、きみが一緒なら安心だ」
「そうよ、安心よ」
「じゃあ、きみが夜道を歩くときも僕を呼んでくれる?」
「ええ、いいわ」
「約束だよ?」
「約束ね」
お化けが怖くて夜道が怖いなんてナインもかわいいところがあるわねと思いながら。
最近は物騒だから、ひとりで出かけて遅く帰ってくるのはやめて欲しいんだよなぁ。
もちろん、それを無駄にはしないナインである。
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