「減るもんじゃない」

 

 

 

キスをしたって減るもんじゃない。

 

スリーは呪文のように唱えていた。
手をぎゅっと握り合わせて。

 

――ジョーが言っていたもの。大丈夫だよ、って。

 

だから、キスくらいどうってことない。

 

 

***

 

 

「うえー。ぺっぺっ」


ナインはがらがらとうがいをしていた。


「くっそ。長い髪が邪魔だな」


ひとつ悪態をつくと被っていたものをむしり取り放り出した。


「ったく。いくら作戦だってやってられるか!大体、こんな作戦考えたのは誰だっ」


……それは自分だったのでなんとも歯切れが悪かった。
更にうがいを数回して、ひと心地ついた。


「…やれやれ」


大きく息をついたところで、人影に気付いた。
いったいいつからそこにいたのだろう。


「フランソワーズ。どうかしたのかい?」

しかし、影は洗面所の戸口に立ったまま動こうとしない。

「フランソワーズ?」

その瞳が潤んでいるのを見つけ、ナインは数歩でスリーの目の前にやって来ていた。

「なんだ、どうした一体」
「……ジョー。私」
「うん?」
「……ごめんなさい……」

消え入るような声。

「バカだなぁ。大丈夫だよ」
「……でも」
「言っただろう、減るもんじゃないって」
「でも」

スリーはぱっと顔を上げた。

「でも!やっぱりイヤだったんだもの」
「あー。うーん。まあ、それは僕もそう思ったけど」
「……」
「ああ、泣くなって。――いいんだって。僕は男なんだし」

ナインはううんと唸るとスリーをそうっと抱き寄せた。

「本当に大丈夫だから」

 

 

***

 

 

今回のミッションでハニートラップを仕掛けようと提案したのはナインだった。
愕然とするスリーを前ににっこり笑って言ったものだ。

「平気だよ。キスしたって減るもんじゃないだろう?」

トラップを仕掛ける相手は男だったから、スリーは自分がやるのだと覚悟を決めた。
ナインがそんな作戦をたてるなんて夢にも思ってなかったから、ショックといえばショックだった。

しかし、彼が平気だというからには平気――なのだろう。

そう思った。


しかし。


「何言ってるんだい?僕が行くに決まってるだろ」


しれっと言って、女装したナインであった。
御丁寧にピンクの防護服にスカーフ、ロングヘアにカチューシャで。

そして、スリーのふりをして――

ナインとしてはあまり思い出したくない瞬間だった。

 

 

***

 

 

いっこうに泣き止まないスリーの頭を撫でながら、ナインは小さく言った。

「僕が他のひととキスするのは許せない?」
「……ええ。心が狭いって思われてもいいわ」
「相手が男でも?」
「ええ。イヤよ」

そう言った瞬間、スリーはぎゅうっと抱き締められていた。

「奇遇だね。僕もイヤだ」


キスしたって減るもんじゃない。

そう言ったのは自分だったけれど、望まぬキスは何かを失くしたような気もしていた。
同時にその補填はどうすればよいのかも気付いていた。


そして、ナインはそれを実行した。

 

 


女装ナインはこちら♪

むき操様宅でキリバンを踏みまして、リクエストいたしました♪
ノリノリなナインっ!
個人的には胸盛りすぎだろう…と思うのですが、スリーの感想が気になるトコロです。

当サイトバージョンの二人ではこんな感じになります・・・
3「ジョー、あの…その胸は嬉しいけど、あのその」(私、そんなにないわ)
9「え?そうかな」(僕にはこう見えるんだけど?)
3「……」(じっと自分の胸を見る)
9「……」(じっと自分の胸を見る)

なにやってんだ、あんたたち!もう好きにしてクダサイ・・・

むき操様、ナインの新たな黒歴史を受けてくださりありがとうございました♪
むき操様の素敵サイトはこちら