「小さな幸せ」
「あー。幸せ」 スリーが満足そうに言った。満面の笑みで。 「やっぱりこたつっていいわよねぇ」 去年の正月にナインの家で初めてこたつなるものを見たスリーは、その暖かさにすっかりこたつのとりこになっていた。 「日本人って凄いわよねぇ」 ナインも一緒にこたつに入って、テーブルに置いてあるみかんを手に取った。 「みかん、食べる?」 身を起こしたスリーはナインからみかんを受け取ると、これまた嬉しそうに剥き始めた。 「ねぇ、ジョー?」 ナインも自分のみかんを剥く。 「どうしてこたつの上にはみかんって決まっているのかしら」 ナインは鼻を鳴らすとみかんを口にいれた。 しかし、スリーのは甘かったようで美味しい美味しいとしきりに言っている。 「なあに?ジョー」 それを見ていたナインの視線に気付いてスリーがこちらを向いた。 「別に」 スリーの差し出すみかんをじっと見つめ、どうしたものかと思案していると焦れたようにスリーがみかんを口元に押し付けた。 「本当に甘いんだから」 みかんが甘いの酸っぱいの、こたつがどうの、と、交わしている話は他愛もないことばかりである。 けれども、いまここの空間は平和そのものであった。 スリーの言う通り、甘かった。
ナインのマンションである。
その和室には例年の如くこたつが出してあり、スリーはそこに埋まるように入ってテーブルに頬を載せていた。そうして先刻のセリフとなったのであった。
「そうやって埋まっているとのぼせるよ」
「いいの。あったかいんだもん」
「まぁ、寒い家屋ならではの発想だろうな」
「ええ!」
「うん?」
「さあ。・・・こたつに入ってのぼせた奴が水分補給するためなんじゃないかな」
「だったらお水を飲めばいいでしょう。そうじゃなくて、きっと冬のみかんが美味しいからよ」
ちょっと酸っぱかった。
「素直に言ったら?」
「何を」
「一個頂戴、って」
「いらないよ別に」
「だって渋い顔してるもの。ジョーのみかん、すっぱかったんでしょう?」
「大人にはこのくらいがちょうどいいんだ」
「もう。素直じゃないんだから。――はい、あーんして」
「わかったよ」
全く世界情勢と関係がないし、そもそも世界の平和を思いながらの会話でもない。
できるなら、このままこうしていられればいいのに。
そう思ったけれど、ナインはそれを口にはせず代わりにみかんを口に入れた。
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