「ジョーったら。どうしてあんな言い方したの?まるでヤクザだわ」

スリーが頬を膨らませた。

「可哀想に。とても驚いていたじゃない」

しかし、ナインは無言でスタスタ歩いていく。手を繋ごうともしない。
スリーは小走りになってナインの隣に肩を並べた。

「今日、会う予定じゃなかったでしょう。どうしたの?」

レッスンの後、帰り道で告白されたのだ。そこへ偶然通りを歩いていたナインがやって来たというわけだった。

「ねえ、ジョー」

腕に手をかけようとするが、するりと体をかわされる。

「・・・ああいうこと、よくあるのか」
「えっ?」
「あんな風に告白されること」
「え・・・」

どう答えたものか少し迷って、

「・・・うん」

と、小さく頷いた。

「ふうん。で、みんなに嬉しいわなんて言うんだ」
「好意を持たれるのは嬉しいもの」
「・・・ふうん。で?」
「え?」
「その後は?」
「その後は・・・ごめんなさい、って」
「ふん。罪な女だな」
「だって。だったら他になんて言えばいいの?」
「まず最初に、嬉しいなんて言っちゃいけない。どうせ断るんだからな。希望を持たせるな。いや、そもそも好きな人がいるってちゃんと言わないのが駄目だ」
「・・・だって、それが告白に繋がるなんて思わなかったもの! 今まで告白されたことなんてないから!」


「えっ?」


ナインは足を止めた。


「フランソワーズ?」


スリーも足を止めた。


「一番好きな人に告白されてないもの!」


きらきら光る蒼い瞳がナインを捕える。その瞳は真剣だった。

 

「告白・・・したじゃないか」
「してないわ」
「したよ」
「してない」
「した」
「してない」
「したってば。覚えてないのかい」
「・・・」

頬を微かに膨らませ地面を見るスリーにナインはちょっと笑った。そうして頬を指で軽くつつく。

「ちゃんと、好きだよって言ったのになあ」
「・・・だって」
「うん?」
「コーヒーのついでみたいだったから」
「ほら!覚えてるじゃないか」

こら、とスリーの頭を突く。

「初めてじゃないだろう、告白されたのは。僕のほうが先だ」

しかしスリーはバツが悪いのか爪先を見たままうんともすんとも言わない。ナインは困ったな、これじゃあいじめがいがないじゃないかと空を仰いだ。そうして周囲を見回し、それほど人目がないことを確認すると、スリーの手を取って膝を折った。

「えっ、ジョー?何を」

スリーの顔を見上げて視線を捉えると、ナインは頬をひきしめた。

「フランソワーズ」
「はい」
「僕のほうが他の誰より思ってるから」
「えっ・・・」
「知ってるよね?」
「そ・・・」
「わかってるよね?」
「・・・」

たたみかけるように問うナインにスリーは小さく頷いた。ゆっくりと頬が薔薇色に染まってゆく。髪の間から見える彼女の耳まで染まってゆくのを見てナインは満足そうに頷くと、立ち上がって膝のほこりを軽く払った。

「たく。こんな恥ずかしいことさせるな」

そうしてスリーが顔を上げる前にその胸に抱き締めた。自分の赤い顔を見せないように。