「好きなひとは?」
「好きな・・・ひと?」 「その、特にそういう人がいなかったら」 フランソワーズにじっと見つめられ、やや頬を染めると口早に続けた。 「僕と・・・付き合って欲しいんだけど」 フランソワーズが口を開こうとすると、慌てたように両手のひらを向けた。 「あ、待って!もちろん、友達からでいいんだ。うん。だって君は僕のことを知らないだろう?だから、」 フランソワーズは黙ったまま、頬に笑みを浮かべた。 「だから、・・・ずっと可愛いなって思ってて、その」 はにかむようにうつむき加減のフランソワーズを見つめ、青年は勢い込んだ。 「えっ!だったら」 「おいっ」 フランソワーズの両肩に手をかけていたサングラスの男はゆっくりと振り向いた。 「・・・はいはい」 ホールドアップのように両手を挙げて。 しかし。 「フランソワーズっ」 青年はフランソワーズに駆け寄ろうとしたが、サングラスの男に腕をがっちりと掴まれた。どういう仕組みなのか、身動きひとつできない。 「駄目だって。いけないな、気安くフランソワーズなんて呼んだら」 サングラスを外すとにやりと笑った。
フランソワーズは数回瞬きした。
目の前の青年はいたく真面目な表情で頷いた。
「・・・ありがとう。告白されるのは初めてだから、ちょっと驚いちゃったけど」
「え。・・・そうなんだ」
「ええ。だから、・・・嬉しい」
「はい、そこまで」
青年とフランソワーズの間に白いジャケットの男が割り込んだ。
白いジャケットに黒いシャツ。そしてサングラス。
とてもカタギには見えない姿に青年はフランソワーズを守らなければと頑張った。
どうせ、からかい半分に絡んできただけのいやがらせに決まってる。フランソワーズの可愛さに目をつけて、あわよくば連れ去ろうという魂胆に違いない。
「うん?」
「彼女に触るな!」
「おっと」
「なっ・・・お前こそ、気安く呼ぶなっ」
「いいんだよ。なにしろ僕は」
「フランソワーズの男なんだからな」