スリーは突然ぱっちりと目が開いて、びっくりしたように身体を起こした。


「やあ」


身体の下にナインがいるのにも驚いた。


「ジョー?」


やだわ、どうして私・・・とパニックになるのを収めるようにナインが言う。


「二人で昼寝しちゃったね」
「・・・昼寝?」
「うん。・・・きみはよく眠れた?」

欠伸混じりに言うナイン。

「え、ええ・・・眠れたわ」

それにしてもどうしてナインの上で寝ていたのかわからない。


「――ねぇ、フランソワーズ」

「なあに?」


答えながらも頭は別のことを考えていた。
ナインの上で寝ていても、寝苦しいとかそういうことはなかったし、怖い夢を見ることもなかった。
ただただ、気持ちよくて――そう、ナインの鼓動が子守唄のように安心感と眠気を誘った。


「あのさ。・・・ぎゅーってしても、いいかな」

「えっ?」


スリーの答えるのを待たずに、ナインはスリーを胸のなかにぎゅうっと抱き締めていた。


「え、あの、ジョー?」


――どきどきしてる。


ナインの鼓動が先刻までより速く打っていて、スリーは頬が熱くなった。
なぜなら、この速さを感じるときというのは・・・


「・・・ねえ、ジョー?」
「うん?」
「・・・あのね」
「うん」
「その・・・今晩、何食べたいかしら」
「うーん。そうだなぁ。何でもいいよ。フランソワーズの好きなもので。なんだったらどこかに食べに行ってもいいし」
「そうね。・・・じゃあ、明日の朝は?」
「・・・明日の朝?」


黙り込むナインにスリーの身体は恥ずかしさで熱くなった。


――女の子からこういうのってやっぱりはしたないかしら。

でも。

ずうっと一緒にいたい、って思ったんだもの。
今日このままバイバイしたくない、って。だから・・・

でも、ジョーは・・・どう、思った?


「・・・明日の朝、ねえ」
「こ、コーヒーだけでも、いい?」


スリーの胸が早鐘を打つ。
ナインの腕が熱い。


「え、と、あの、ここで――淹れたいの。コーヒー」


朝のコーヒーはいつもギルモア邸で飲んでいるじゃないか――と、言われる前に言ってしまう。
果たしてナインはこの意味をわかってくれるだろうか。
それとも――女の子からこんな風に言われるのは好きではないと怒るだろうか。


「――フランソワーズ」


スリーはぎゅうっと目をつむった。
ナインの胸に顔を隠すように。


「・・・それって明日だけ?」

「えっ?」


思わず顔を上げると、そこにはナインの照れたような笑顔があった。


「別に・・・明日だけじゃなくてもいいんだけど」

「え、それってどういう――」

 

そのまま天地が逆転して。

 

ふたつの鼓動が重なった。