「貧乳同盟」
「なんだそれ!」 ナインはスリーの前でぴたりと足を止めると両手を広げて力説した。 「いいかい?君は貧乳じゃない!だいたい、そんな会を設立する事自体、納得がいかないよ!」 スリーはしょんぼりと自分の胸元を見た。 「違う!いいかい?女性の胸っていうのはだな、大きさで決まるわけじゃないんだ」 黙って大人しく――否、半分呆れて――聞いていたスリーであったが、ナインの演説が微妙な方向に向かい始めたとわかるとソファを蹴倒す勢いで立ち上がった。 「もうっ!そんなこと、そんな大きな声で言わないで!」 ナインは至極真面目な顔である。まるで哲学の講義をしているようだ。 「そうじゃないって!大体――ああくそっ、そんなに気にするんなら、僕がどうにかしてやるっ」 ナインの微妙な手の動き。 「いやっ!何考えてるのよ、ジョーのエッチ!」 スリーはソファの上のクッションを掴むとナインに投げつけた。 「ジョーのばかっ」 そのまま部屋を駆け出して行ってしまった。 ひとり残されたナイン。足元にクッションが落ちた。 君の胸が大きかろうが小さかろうがどうでもいいんだよ。君が君である限り僕は――
ナインはそれこそ頭から湯気を出して怒っていた。
ギルモア邸のリビングを意味もなくぐるぐる歩いている。
「ひどいわ、ジョーったら。ひとの電話を盗み聞きするなんて」
ソファに座って頬を膨らませているのはスリー。
先刻まで携帯電話で友人とお喋りしていたのだが、それをすっかりナインに聞かれてしまっていたのだ。いや、誰もが自由に出入りする場所で電話していたのだから、誰に聞かれても文句は言えない。
が、内容が内容であり、その件について意見されるとなるとまた別だった。
「ふん。勝手にそんな会に入るからだろ!僕に断りもなく!」
「別にジョーには関係ないじゃない」
「あるさ!」
「・・・だって貧乳だもの」
決して豊かとは言えない膨らみ。日々それを気にするようになったのは、他でもない目の前にいる人のせいなのだけれど。
「・・・そういう言い方をするってことは貧乳だって認めているのね」
「だから違うって!人の話を聞きたまえ。いいか、女性の胸はパートナーの満足度で決まるんだ」
「――は?」
「つまり、君の場合は僕だ!」
「・・・」
「僕は君の胸が大変気に入っている。柔らかさも大きさも僕の好みだし、大体手のひらにおさまるくらいの可愛い胸が僕は好きなんだ」
「・・・」
「それに大事なのはなんと言っても感度だ!僕は君の――」
「もういいわ!」
「なぜさ?僕は君の胸が好きだと言ってるだけじゃないか」
「そうじゃないでしょ?貧乳かどうかっていう話だったじゃない」
「だから」
「ジョーだって貧乳って認めたじゃない!だからあれこれ弁解してるんだわ!」
「だから違うって!人の話を聞けっ」
「どうにかって何よっ」
「それはつまり」
それを目にした途端、スリーは真っ赤に茹った。
「なんだと、失敬な!エッチじゃない男なんかいるもんか!」
「知らないっ」
「・・・だから、そういう意味じゃない、って――」
「――ひとの女に向かって貧乳なんて言われたら、怒るに決まってるじゃないか」