自室に駆け込んだスリーは、閉めたドアに背を預け、そのまま床に座り込んだ。


「――もうっ・・・ジョーのばか」


とても真面目な顔で何度も好きと言われた。


「ばかっ・・・」


つまりは自分がどんな姿でも、ナインは好きだとそう言ってくれていたのである。


「・・・ジョーのばか・・・」


頬が燃えるように熱い。
両手を頬に添えてじっと床を見つめていたが、スリーはあることに気がついてはっとした。


私、何度も好きって言われたのにジョーに何も言ってない。


たかが胸ひとつにあんなにムキになって、熱く弁護してくれたナイン。自分のことではないのに。


――ジョーはいつも、そう。

戦いの時、体を守ってくれるのはもちろんのこと、普段はスリーが落ち込んだり悲しい思いをしたり何かマイナスな感情に支配されると必ず助けてくれる。
メンタルな部分も守ってくれるのだ。

スリーはぱっと立ち上がると、先ほどの勢いを凌駕するスピードで階段を駆け下り、リビングに飛び込んだ。


「ジョー!」


しかし、そこには誰もいなかった。
投げつけたクッションだけがぽつんと寂しげに残っているばかり。
もう帰ってしまったのだろうか、いったい自分はどのくらい部屋で考えこんでいたのか。
ナインの帰る音にも気付かなかったなんてと自分を責めだした時、玄関先からエンジン音が聞こえた。

ナインの車である。

まだ帰ってなかった、とスリーは脱兎の如く玄関に向かい靴も履かずにドアを開けて、そして――


「ジョー、待って!」


今にも走り去ってしまうかもしれないと思って慌てていたスリーの目に映ったのは、オープンカーの運転席で腕を組んでいるナインだった。


「どうしたんだい?そんなに慌てて」


のんびりとした声。


「だって、ジョーがいないから、私・・・」
「フン。この僕が君の顔を見ずに帰るわけないだろう?早く乗れ」
「えっ?」
「待ちくたびれたよ」
「え、だって」

ナインはくすりと笑うと車のドアを飛び越え、スリーを抱き上げた。

「――君のことは全部お見通しなんだよ」
「・・・なによ、それ」
「うん?それじゃあ僕の勘違いかな。君が僕に何か言いたいことがあるんじゃないかって思ってたんだけどね」
「・・・もうっ」

意地悪、と小さく呟いて、そしてスリーはナインの首に腕を回した。