「台風の朝」
「風が強いわね」
「うん。台風がきてるってテレビで言ってたよ」
ギルモア邸のリビングで、スリーとセブンは並んで外を見ていた。
海のほうではなく、こちらに続く坂道のほうを。
「アニキ、来るかなぁ」
セブンがスリーを窺う。
「いくらジョーでも、この天気ですもの。今日は来ないわよ、きっと」
「そうかなあ」
「そうよ」
そう言いつつも、心のどこかでは期待していた。
台風など関係なく、いつものようにコーヒーを飲みに来てくれるのを。
しかし。
「風速50メートルって言ってたよ」
言いながら、セブンが窓を開けた。途端に室内に小さな嵐がおこり、新聞紙が舞い上がった。
「もうっ、早く閉めて!」
髪がもみくちゃになり、スリーとセブンは協力して窓を閉めた。
「もうっ・・・駄目でしょ、セブン」
「ゴメンゴメン。でもさ、ちょっとアニキが来た時みたいだったよね」
「えっ?」
「アニキが走ってきたときっていつもこうなるじゃない」
「・・・そうね」
たった一日会えないだけなのに、スリーの気持ちは朝から沈んでいた。
・・・どうかしてるわ。毎日来なくたっていいのにと言っていたのは私なのに。
しかしそれは、それでも毎日来るだろうということが大前提であった。
だからこその憎まれ口に他ならない。
「スリー、あのさ」
元気のないスリーを気にしてセブンが声をかけようとした時、勢いよくドアが開いた。
赤いマフラーが翻る。
「アニキっ」
「ジョー!?」
「やあ」
白い防護服姿のナインは片手をあげると、そのまま当然のようにソファに陣取った。
「なんだいアニキ!てっきり今日は来ないものと思ってたよ。ねっ?スリー」
「えっ?・・・ええ」
ナインは腕組みしたまま二組の視線を受け止めた。
「それに何だよ、その格好!なにか事件でもあったのかい?」
「別にそういうわけじゃないよ」
「だったらどうして?」
「・・・うん。途中で電信柱が倒れててね。車が通れなかった。仕方ないから戻って着替えて走ってきたというわけさ」
「ふうん。アニキのことだから、電柱も直したんだろ?」
「まあね。ここへ来るついでさ」
「さすがは009」
「当たり前だ。・・・ところでスリーは?」
「うん?・・・あれっ?さっきまでここにいたのに」
二人がキョロキョロしていると、スリーがドアから顔を覗かせた。
「ジョー、着替えたら?」
「いや、いいよ別に」
「でも、濡れたままじゃ風邪ひくわ。ほら、着替えも持ってきたし。いくら防護服でも、ずうっとそのままじゃ体によくないわ」
「いいよ、メンドクサイ」
「駄目よ。風邪ひいちゃうわ」
「ひかないよ。僕は009だ」
「関係ないでしょ?・・・ほら」
スリーに腕を引かれ、しぶしぶナインが立ち上がる。
「全く。君は朝から元気がいいね」
「何言ってるの。ほら、早く」
「はいはい」
そんな二人を見て、セブンが無邪気に言った。
「スリーってば、さっきまで元気がなかったのに、アニキの顔を見た途端、元気になったね」
「えっ」
スリーの頬に赤みがさした。
「いやね、何を言ってるのよ」
ナインから手を離す。
「私はさっきから元気だったわよ?」
「そうかなあ」
ニヤニヤするセブン。
「もうっ、いやね、セブンったら!ジョー、行きましょ」
しかし。
「やだわ、ジョーまで!」
リビングにはニヤニヤ笑いのセブンと、どこか嬉しそうなナインが残された。