「七草」
「おかわりっ」 「おかわりっ」 睨み合うふたりに私はやれやれと息をついた。 「ケンカしないの。まだまだたくさんあるんだから」 今日は七草。 七草がゆを作ったので、ジョーももちろん食べに来てくれていた。彼はこういう機会は逃さない。 「ふたりとも、もう五杯目よ」 私は苦笑すると、差し出された二本の腕を見て片方の茶碗を受け取った。 「ああっ、スリー。それはないよ。またアニキが先かよっ。さっきもそうだったじゃないか!贔屓ひいき!」 ジョーにお茶碗を渡して、次にセブンのを受け取る。 「ただの順番でしょう?」 そうねえ。そうかしら。 私はちょっと考えてから口を開いたのだけど遅かった。 「ふん、何を言うか。普通は第三者が遠慮するもんだろ」 セブンが膨れてみせる。 「オイラだってスリーが好きなんだい!」 私はふたりをじっと見て――そして言った。
二つの椀が争うように差し出される。
「あっ、お前、いい加減遠慮しろっ」
「アニキこそ何杯目だよっ」
みんな、おいしいって食べてくれて、私はとても嬉しかったんだけど博士がごちそうさましてもジョーとセブンはいつまでも食べていたのでちょっと困ってしまった。
「だから何だ。まだまだ足りないぞ」
「無理しなくてもいいんだぜ、アニキ」
「ふん。そっちこそ」
「贔屓したらダメ?」
「当たり前だっ。基本的人権の尊重を断固要求する!」
「もう・・・セブンったら大袈裟ね」
「だってスリーはアニキが好きでアニキはスリーが好きなんだろ?そこに作為があるのはわかるけど、そういうのって第三者に気を遣ってこそじゃないの」
「年末年始、ふたりっきりだったならいいじゃないか」
「ははは。残念だったな。僕のほうがずうっと好きだ」
「オイラのほうが昔っから好きだもんね!」
「いいや、僕だ」
「オイラだ!」
「僕だ」
「オイラ!」
「私は二人とも大好きよ」
「ええーっ」
「そりゃないよー、スリー」
「・・・贔屓したじゃないか」
「ほらみろアニキ。うぬぼれは怪我の元だよ」
「うるさいな」
前髪の奥から覗く黒曜石の瞳がちょっとだけ寂しげに揺らめいた。