「兄妹じゃない」
きっとフランソワーズを妹のように思っているのよ 昼間にバレエ仲間とお茶した時の他愛ない会話が甦る。 帰宅してゆうごはんを食べているときも。 自室のベッドに寝転んでいるときも。 見据えた天井には何が映っているわけでもなかったけれど、スリーはじっとそれを見つめていた。 否。宙を見据えて反芻していたのだ。 実はそう思ったことは一度や二度ではないのだ。 ナインはスリーの保護者。 そんな図が浮かんだ。 スリーの恋は絶望的だった。 そして、今は対等に思い合う恋人同士になった――はずであった。 しかし、第三者に「ジョーはフランソワーズを妹のように思っている」ように見えたのだったらあるいはもしかしたら、こちらのほうが真実なのかもしれない。 スリーの心のなかには、そんな不安な気持ちが渦巻いていた。 私はちゃんとジョーを守ることができるひとりの女の子よ。 でも。 「…妹、か…」 声に出して言ってみるとなんだかそれが真実であるかのように聞こえるのだった。 スリーは顔の上に腕を載せると目をつむった。 なんだか涙が出そうだった。
特にこの一節はスリーのなかで消化されることはなく繰り返し再生されていた。
――妹のように思っているのよ。
その言葉を発した友人は悪気はなかったのだろう。
それほど重い言葉を口にしたという自覚もなく、ただ会話のなかのひとつにすぎないと思っていたに違いない。
だからスリーも笑い飛ばして受け流してもいいはずだったし、実際、その場では「そうかしら」と言って笑ったものだった。
しかし。
――私はジョーにとって妹でしかないのだろうか。
その思いは澱のように心に沈んだ。
今でさえ、気持ちが通じ合った恋人と思っているけれど、それまでは自分は彼の妹というポジションでしかないのだろうと諦観に似た思いでいたのだ。
だから、澱のように沈殿していたそれに新たなものが足されたからといってどうということもないはずだった。
――でも、私はジョーをお兄さんみたいなんて思ったことは一度もないわ。
唇を噛む。
ナインがスリーのことを最初はどんな位置づけで見ていたのかスリーにはわからない。
彼にとって、003という仲間以外にどんな思いもなかっただろうし、足手まといになる使えない女の子という意識だってあったかもしれない。そして、そのうちその足手まといを自分が面倒みなければと思ったのかもしれない。
彼のリーダーとしての素質を思えば当然のことだった。
だからスリーを子供扱いするし、いつでも諭すような口ぶりだったのだ。
そこには異性に対する愛情などかけらも感じられなかったから、スリーはただ悲しかった。
――だって、お兄さんなら恋愛対象にならないじゃない。
そうなのである。
だから、自分は決して彼の妹ではないし、もしも本当にそう扱われているのなら不本意だった。
なんとかして自分は妹なんかではなくひとりの女の子として見てもらいたかった。
妹なんかじゃない。
お兄さんなんかいらない。
保護者だっていらない。
彼にそんな役目を期待していない。
ジョーはどうしたってジョーなのだ。
それ以上でも以下でもなく、ただジョーが好きだった。