「――なんだって?」


よく眠れずに朝を迎えたスリーに、今日も早くからギルモア邸に姿を現したナインは訝しそうな顔をした。


「いったいどうしたんだい?」


キッチンでコーヒーの準備をしていたスリーの隣にナインが立つ。


「――だから。友達に言われたの。ジョーは私を妹みたいに思っているのね、って」


横目でナインの様子を窺う。
ナインは険しい顔をしてじっと前方を見つめていた。
彼の目の前にはコーヒーメーカーがあって、いまも香ばしい香りを漂わせている。

ナインが何も言わないから、スリーは続けた。


「妹みたいに大事にしているのね、って」

ナインは大きく息を吐き出した。

「――寝不足の原因はそれかい?」
「えっ…ええ」

するとナインは半身をスリーのほうに向け、手をのばして彼女の頭に触れた。

「――そんなわけないだろう」
「でも」
「ばかばかしい」

そう言われても俄かには信じ難かった。
落ち込んでいるような様子を察して否定してくれているだけなのかもしれない。

「じゃあきみは僕を兄のように思っているのかい?」
「まさか!そんな風に思ったことは今まで一度もないわ!だって」


――兄として思っていたら恋愛対象にならないではないか。


「同じだよ。僕だってきみを妹だなんて思ったことは一度もない。だいたい、そう思っていたらこんなことするもんか」

 

 


妹なんかじゃない。

 

兄なんかじゃない。

 

そんな対象ではないのだ。

 

おそらく――最初に会ったときから。

 

 

 

ナインの唇から直接伝えられる熱がそう語っていた。