「その目に他の誰をも映すな」
〜第22・23話「復讐鬼」より〜

 

 

「変なものが見える?何だそれは」

 

そんな訳がないだろう、頭が変になったのかフランソワーズ――という思いと
いや、彼女がそういうなら本当なんだろう、だったら何故――という思いが交錯し、
ジョーの声音は怒っているのか心配しているのかわからない、妙な声になっていた。

 

「だって、・・・見えるのよ」

 

フランソワーズの怯え方は尋常ではない。
普段から、自分だって戦士なのだから大丈夫と言っている強さは微塵も感じられなかった。
いったい、何が見えるというのか。

 

「おばけか何かが見えるの?」

セブンが心配そうに訊く。フランソワーズの手を握り締めて。

 

「――ううん。おばけというよりも・・・」

言いかけて、びくんと肩を震わせる。

 

「――イヤっ。来ないでっ」

叫んでセブンの手を乱暴に放す。

 

「フランソワーズ!落ち着け!ここには何もいない!」

 

素早く彼女を背に庇い、ジョーは油断なくスーパーガンを構え四方に目を走らせる。
しかし、彼の見える範囲には異常なものは何もなかった。

 

「・・・何も見えないよ。フランソワーズ」

しばらくしてスーパーガンを下ろし、彼女の方へ向き直る。
ジョーの目には、何に怯えているのかわからない彼女の姿が映る。

 

「・・・でも、見えたのよ」

 

顔を覆い、肩を震わせるフランソワーズにジョーは成す術もなかった。
そっと肩に手をかける。

 

「・・・私の気が変になったのかもしれない」

「――そんなことないよ、フランソワーズ」

 

ジョーは彼女をそのまま静かに胸に抱き締めた。
全てのものから守るように。

 

「きみがそう言うなら、僕は信じるよ。きっと何かが起こっているんだ。とてつもない何かが」

「・・・ジョー」

「大丈夫だ。何があっても、僕がきみを守る」

そうして体を離し、改めてフランソワーズを見つめた。

「――大丈夫。心配しないで」

 

今のフランソワーズは恐怖に支配された女の子だった。
しかし、もしそれがブラックゴースト絡みの何かが起こる前兆なのだとしたら――003として戦ってもらうしかないのだ。
それは、今の彼女の怯え具合からいうと酷な話だった。
変なものが見える上に、それが何故なのか探れ――などと。
しかし、現実問題としていまそれは彼女にしか見えないのだから仕方がない。

代われるものなら、代わりたい。

 

「絶対に、守るから」

 

フランソワーズの綺麗な綺麗な瞳。

それに勝手に映ってくる奴らを絶対に許すわけにはいかない。

 

――彼女の瞳に映っていいのは、僕だ。

他の者が割り込むなんて許さない。

 

絶対に。

 

 

 

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