お揃い。
なにやら禍々しい響きである。
普通なら仲良し同士が身につけるものであり、ほほえましさを現すものだがナインにとっては避けられない運命を示す言葉であった。
ピンクの細かいストライプ。
白地のシャツではあるが、遠目にみたらピンクのシャツに見えること間違いない。
――いくらなんでもそれは。
しかし、スリーの嬉しそうな、期待に満ちたマナザシを思い出すと着ないわけにはいかなかった。
お揃いだというからには、彼女も同じものを持っているはずであり、ナインがイヤだと言ったらきっとひどくがっかりするだろう。もしかしたら泣いてしまうかもしれない。そんなことで泣くわけないだろうと思いつつも、先刻の嬉しそうな彼女の様子を思うと自信がない。
だからきっと――ここはひとつ、着るしかあるまい。
昨年も同じ窮地に陥って、結局、折れたナインである。
ただ。
昨年は特殊な場所に限られていた。だから大丈夫だったと言えなくも無い。
お揃いの水着というのは、着用するのは海かプールであり、そういう場所は周囲もテンションが高いので誰が何を着ていようがそれほど注視されることはない。
しかし、今年はシャツである。
シャツは着る場所を選ばない。彼女が「あれ着て」と言えば着れるのである。着るしかないのである。
――なんでピンクなんだ。
せめて青とか、紺とか無難な色ならまだしも、ナインはピンクが選ばれた理由を知りたかった。
***
「いやん、似合うー」
のっそりとリビングに入ったナインをスリーの嬌声が迎えた。
そのまま手を引かれ、スリーに前後左右から眺め倒される。
「よかった、サイズもピッタリだわ!」
満面の笑みのスリーに、ナインは不機嫌を隠そうともせず言った。
「なんでピンクなんだ」
「似合いそうだったし、可愛いでしょう?」
「他に色はいくらでもあっただろ?青とか、紺とか」
「イヤよ!青とか紺のシマシマってパジャマみたいだもの!」
――だから却下されたのか。
ナインは脱力した。
それに自分は青いストライプのパジャマなぞ持っていない。
「じゃあ、黄色の方が良かった?」
「いや・・・」
同じくらいイヤである。
「迷ったのよ。黄色とピンクと赤と。でも、最終的には私の好みで決めました!」
そうだろう。たぶんそうだろうと思った。
ナインはぐったりとソファに腰を降ろした。
確かにシャツのサイズはぴったりだったし、不本意ながら――似合ってもいたのである。が、慣れない色の服だから落ち着かないこと甚だしい。
「でねでね、これがお揃いなのっ」
じゃーん。と擬音つきで提示されたお揃いの品に、ナインはがばっと身を起こした。
「お揃いじゃないじゃないかっ」
「ま。何言ってるの。お揃いじゃない」
「違うっ。断じて違うっ!」
「いやあねえ、ジョーったら。もしかしてお揃いのお洋服だと思ったの?いくら私でもそれはしないわよ」
そんなペアルックは恥ずかしいわ――と頬を染める。
「今は、よーっく見ればお揃い、っていうのがいいのよ」
「だけどっ、ズルイじゃないかっ」
「ずるくないわよ。だったらネクタイのほうが良かった?」
「そ・・・」
それもイヤだった。
ピンクのストライプのネクタイなんて絶対に締めたくない。
「――だけど」
「ほら。こうすればさりげないお揃いの出来上がりよ」
そうしてスリーが身につけたのは、ピンクのストライプが可愛らしいカチューシャだった。
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