「照れ隠し」

 

 

突然、スリーがやってきた。

彼女が何の前触れもなく来る時は、大抵何かよからぬことを企んでいる。
僕は経験上、いやというほど知っているのだ。

今日はいったい何事なのだろうか。


「ジョー、出かけましょう」


スキップするみたいにリビングにやって来ると、明るく言った。


「行かない」

そう、断固として行くものか。

「どうして?」

どうして、って、それはだな。

「暑いからってずうっとお部屋にいるのは体によくないわ。適度にお日様にあたらなくちゃ」


ねえ行きましょうと僕の腕を引く。鼻にかかった甘えるような声。
くっそお、なんて可愛いんだ!
ともすれば緩みそうな頬を引き締めて、僕は天使の顔をした悪魔を腕から払った。

「絶対、行かない」
「どうして?」

そんな顔をしたって駄目だ。

「私と出掛けるのが嫌?」
「そうじゃないよ」
「だったら、どうして?」

それは。

「・・・着替えなくてもいいなら、出掛けてもいいぞ」
「まあ!駄目よ、着替えなくちゃ!」
「そんなに変な格好じゃないだろ」

Tシャツにジーンズは悪くないと思う。

「駄目よ!だって」

僕は次の言葉の予想がついたから、わざとらしく耳を塞いだ。


「お揃いにならないじゃない!」


そう。

最初からわかっていたんだ。

彼女がピンクのストライプのカチューシャをつけているのを見た時から。

 

 

「うふっ。似合うわ、ジョー」


30分後。
天使の顔をした悪魔は、僕の腕に巻き付いてご満悦だった。

結局、僕はピンクのストライプシャツを着て一緒に出掛けてしまっていた。


着替えたらちゅーしてあげる、なんて反則だと思う。
その反則技に負けてしまう僕も僕だと思うけれど。