「白馬の王子さま」
私には白馬の王子さまは来ない。 きっと、迎えに来る途中で道に迷ったのか、あるいは遠くから私の姿を見てがっかりしたのかもしれない。
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「白馬の王子さま?そりゃまた、えらい乙女チックだな」 ナインが呆れたように言うから、私はそんな話をした自分を呪った。 「ナインにわかってもらおうなんて思ってないわ」 にやにやしているナインにくるりと背を向ける。 「女の子はみんな、そういう夢を一度は見るものなのよ」 思わず振り返り、ナインを睨みつける。 「現代に当てはめれば白馬は自動車なの。颯爽と素敵な車に乗って現れるスーツのひとが白馬の王子さまなの! つんと横を向く一瞬前、ナインはにやにや笑いを引っ込めていた――ように、見えた。 「そういうナインだって、きっと誰かの白馬の王子さまなのよ?」 するとナインは失礼にも噴き出した。 「やめてくれよっ・・・僕が白馬の王子さまだって?そんなの、臍で茶を沸かしちゃうね」 ・・・あれ? 「――だから、早く迎えに行かないと・・・」 なんだろう。 「――ふむ。なるほど。だったら迎えに行かなくてはいけないのだな」 ナインが誰かの白馬の王子さま。 誰かの。 「それは男の義務なんだな?」 ナインが近付いてくる。彼の足音でわかる。 「だったら」 目の前に黒い瞳が現れた。 「どうして泣いているんだい?」 慌てて顔を拭うと頬に涙が流れているのがわかった。 「・・・あ。やだ。どうして私・・・」 泣いているの? 「――あのさあ」 ナインは身を引くと、呆れたように私を見つめた。 「きみ、もしかして自分には白馬の王子さまは来ない――なんて、思ってるんじゃないだろうね?」 やれやれ、と大仰に肩を竦めて見せる。 「・・・しょうがないなあ」 ううんと唸りながら、自分の髪をくしゃくしゃにかき回す。 「なんで、もうとっくに迎えに来てる、って思わないわけ?」
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いつかどこかからやって来るはずの、白馬の王子さま。 待っても待っても姿が見えないのは当たり前だった。 私の白馬の王子さまは、とっくに迎えに来て――いま隣に立っていたのだから。
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