「赤い靴」

 

 

「フランソワーズ。あんまり走ると転ぶぞ」


僕は慌てて彼女の手を掴んだ。


「大丈夫よ。もう、ジョーったら心配性ね!」


そんなこと言ったって。
いつもより踵の高い靴を履いた彼女は、ゆらゆらふわふわ、危なっかしくて見てられない。


「いいから!掴まっておけよ」


無理矢理僕の腕を持たせると、頬を膨らませながらも素直に従った。
全く。
最初からこうしていればいいのに。
まるで、わざと僕に心配させているみたいだ。


・・・わざとなのだろうか?


そうっと隣を窺うと、丁度こちらを向いた蒼い瞳と目が合った。
いつもより距離が近くて驚いた。
そうか、彼女の靴はいつもより少しばかり踵が高いんだったっけ。


「ねえ、ジョー?」

「なに?」


すると、フランソワーズの頬がさっとピンクに染まった。


「この靴を履くと、顔が近いのね」

「・・・そうだね。」


それがなに?


「・・・チューするのが簡単ね?」


え。それって、どういう・・・


けれどもフランソワーズは、ぱっと僕の腕を離し駆けて行ってしまう。
軽やかな足取りは、まるで踊っているかのよう。


「ジョー、早く!始まっちゃうわ」

 

今日観る予定の『赤い靴』。
それにちなんだのかどうかわからない、彼女の赤い靴。

くるくる回って。

ステップ踏んで。

ひらひら、ふわふわと舞っている。

 

僕を翻弄するかのように。