――ジョーはいつまでここにいるのかしら。

 

その日の夜遅く、スリーは自分の部屋のバルコニーで空を眺めていた。


――いつまで、って・・・リタがいる限り、ずっといるのよね。・・・たぶん。


先刻見た光景が脳裏に甦る。
泣いているリタを慰めるナイン。僕が守るからと優しく繰り返していた。

スリーはため息をつくと、その映像を振り払うかのように二三度頭を振った。


「フランソワーズ」


名を呼ばれ振り返ると、ドア口にナインが立っていた。


「いま、いいかい?」
「ええ」

そうしてナインがゆっくりとやって来て、スリーの隣に立った。

「何してたんだい?」
「・・・星を見ていたの」
「・・・ふうん」
「リタはもう眠ったの?」
「ああ。――眠るまでいてくれって言われてね」
「――そう。あなたがそばにいるなら安心ね。リタも」
「・・・・」

ナインは答えず、空を見つめた。
スリーも何も言わない。


「・・・フランソワーズ」


ナインが小さく呼ぶ。


「なあに?」
「・・・その。リタのことだけど」
「ええ」
「彼女は僕が守るけど――」
「ええ」
「でも僕は、君もちゃんと守るから」
「・・・そう」
「本当だよ?」
「わかってるわ」

ナインが何か言いたげにスリーの方を向いた。が、スリーはそらを見たまま動かない。

「・・・フランソワーズ。本当にちゃんとわかってる?」
「わかってるわ」
「僕は」
「わかってる」

遮るように言って、スリーはナインに向き合った。

「ちゃんとわかっているから。だから、あなたはリタのことを」
「・・・うん」

そう――スリーはちゃんとわかってくれている。
変なやきもちをやかない彼女にナインは感謝すべきだろう。

しかし。

「・・・フランソワーズ」
「なあに?」
「・・・その、本当に――」
「わかってるわ」
「だけど」
「わかってるって言ってるでしょう」

しつこく食い下がるナインが鬱陶しかったのか、スリーの声は少し乱暴だった。

「いい加減にして。こんなことくらいで妬いたりしないわよ!」


そう――喜ぶべきなのだろう。
任務に関して私情を挟まない彼女を。

けれど。

――本当は妬いて欲しい・・・なんて、言えるわけがない。

しかし、これでもかと「わかっている」「大丈夫」を繰り返されると、ナインなんか別に興味ないわと言われているような気分になってしまう。
それが少し――寂しかった。


「――うん」


自分は何て勝手なのだろう。とナインは手すりを握り締めた。
いいじゃないか。やきもちをやかれないということは、信頼されてるって事なんだから。
それは嬉しいことのはずだろう?


「・・・しないわよ。妬いたりなんか」


スリーが小さく繰り返した。
それがまるで、自身に言い聞かせているかのようにナインには聞こえた。
思わず苦笑してしまう。


「妬かないけど・・・ちょっとだけ、寂しかったわ」

ナインがスリーに問いかける前に、彼女は彼の腕にもたれていた。

「でも、ちょっとだけよ。ちょっとだけ」
「フランソワーズ」

ナインのことを思って星を見ていた――なんて、とてもじゃないけど言えやしない。
でも、ここに来てくれて嬉しかった。
今日はずっとリタとばかり一緒のナインだったから。

ナインの胸に嬉しさがこみ上げた。

「うん。・・・ごめん」
「謝らないで。だって、来てくれて嬉しかったから」
「うん。僕も・・・寝る前にフランソワーズの顔を見ないと落ち着かないから」