「SAKURA」
「桜といえば花見だな」 そう言ったのはゼロゼロナイン。 「花見といえばお弁当だね」 セブンも声を揃える。 そんなわけで、今度の日曜日はみんなでお花見をすることになった。 でも私は、和風のお弁当を用意する。 「わかったわ。腕によりをかけて作るわね」 だってそれは・・・ゼロゼロナインのため。
「――キレイだね」 戸惑う私をよそに、ゼロゼロナインは上機嫌だった。 「おっ。向こうの桜も満開だ。――ホラ」 はしゃいであちこち指さしてみせるから、私はその度に指差す方を見たり相槌を打ったり忙しかった。
――二人きりだなんて聞いてない。
ナインが迎えに来て、さあ出発という時に博士とセブンが急に「行かない」と言ったのだった。 ナインの手には、私の作ったお弁当――三段重――が提げられている。 「博士たち、私たちがどこにいるかわかるかしら」 実際、凄い人出だった。 「心配性だな、スリーは」 そう言うとナインは私の鼻をちょんとつついた。 「――っ!」 ナインの手には桜の花びらが一枚。 「それにしても、確かに凄い人だよな」 からかうようなその口調に顔が熱くなる。 「なりません。――全くもう、すぐ子供扱いするんだから!」 子供じゃないのに。 「だから、――ホラ」 ナインが手を差し伸べる。 「子供は手をつないでないとね」
どこをどう歩いて来たのか憶えてない。 「たくさん作ったんだね」 お重を並べて、おにぎりを頬張りながら嬉しそうに言う。 「だって五人分だもの」 言いつつも食べる手を休めない。 「でも・・・」 特別なおかずなんて入れてないのに。 「もし違うとすれば・・・桜のせいじゃないかしら」 そう言って、じっと見つめてくる黒い瞳に急に鼓動が速くなった。 「ゼロ」 「おーい!アニキー!!」 セブンたちの声に遮られた。 「おー!こっちこっち!」 セブンを先頭に博士たちがやって来た。 「いい場所を取れたのう」 セブンがナインの食べ散らかした重箱を見つめ肩を落とす。 「やっぱりなァ・・・スリーってば、アニキの好きなもんばっかり作ってたからさ、早くしないと ニヤリと笑うナイン。 私はセブンの言葉に思わず下を向いてしまった。 「それにしても、少しくらい残しておいてくれたって・・・」 いじましく重箱をつつくセブン。 「ふん。ひな祭りの時、全部食べたのは誰だったかな?」 睨みあうふたり。 「ゼロゼロナインったら。また作るからケンカしないで?」 思わず仲裁に入る。 「また作る?そういう問題じゃない」 だったら何なの? その間に残っていた卵焼きを見つけ、大喜びで食べようとするセブン。 「――しょうがないな。そこの屋台で綿菓子でも買ってくるから、それで我慢しろ」 卵焼き卵焼きー!と大騒ぎ。 「そうアルね。ワタシの作った弁当もあるからシテ」 「・・・オイラもスリーのお弁当食べたかったなぁ・・・」 笑いながら言うと、急にゼロゼロナインが立ち上がった。 「行くぞ。フランソワーズ」 そう言って手を差し伸べている。 私も一緒に行くの? 「――ほら。フランソワーズ」 そう言って笑う。 「・・・しょうがないわねぇ」 言って、ナインの手をとった。
私の手を引いて、どんどん歩いてゆくナイン。 「ジョー?」 呼びかけても、何も言わない。 どんどん博士たちのいる所から離れていってしまう。 「・・・ジョー?」 答えない。 とうとう公園の外れまで来てしまった。 「・・・キレイ・・・」 ジョーは私の手を握ったまま、何も言わない。 「――せっかく」 しばらくの沈黙のあと、ボソリと呟くように言うナイン。 「せっかく、二人きりだったのに」 そうして一瞬私の目を見つめ――すぐに視線を逸らせた。 「今度は、二人で来よう」 私は何て答えたらいいのかわからず、目の前を流れてゆく花びらだけを見つめていた。 ![]() (水無月りら様より頂きました♪) |