「SAKURA」

 

 

「桜といえば花見だな」

そう言ったのはゼロゼロナイン。

「花見といえばお弁当だね」

セブンも声を揃える。

そんなわけで、今度の日曜日はみんなでお花見をすることになった。
毎年この時期は、お花見をする。
お弁当の担当はシックス。中華風のお重を持って来てくれる。

でも私は、和風のお弁当を用意する。

「わかったわ。腕によりをかけて作るわね」

だってそれは・・・ゼロゼロナインのため。

 

 

「――キレイだね」
「そうね」

戸惑う私をよそに、ゼロゼロナインは上機嫌だった。

「おっ。向こうの桜も満開だ。――ホラ」

はしゃいであちこち指さしてみせるから、私はその度に指差す方を見たり相槌を打ったり忙しかった。

 

――二人きりだなんて聞いてない。

 

ナインが迎えに来て、さあ出発という時に博士とセブンが急に「行かない」と言ったのだった。
どうやら、シックスが遅れているから、彼を待って一緒に行くという。
だったら私も待つわと言うと、ナインと一緒に先に行って場所取りをしておいてくれと頼まれた。
なので仕方なく――ナインと二人で出発した。

ナインの手には、私の作ったお弁当――三段重――が提げられている。

「博士たち、私たちがどこにいるかわかるかしら」
「大丈夫さ。むこうにはセブンもシックスもいるんだから」
「でも・・・」

実際、凄い人出だった。
迷子になったら最後、二度と会えなくなるかもしれない。

「心配性だな、スリーは」

そう言うとナインは私の鼻をちょんとつついた。

「――っ!」
「ホラ。花びらが」

ナインの手には桜の花びらが一枚。
それをふうっと吹く。

「それにしても、確かに凄い人だよな」
「そうね」
「迷子になるなよ?スリー」

からかうようなその口調に顔が熱くなる。

「なりません。――全くもう、すぐ子供扱いするんだから!」
「だって、子供だろう?」

子供じゃないのに。
ナインの目には、やっぱり私は子供に映っているのだろうか。

「だから、――ホラ」

ナインが手を差し伸べる。

「子供は手をつないでないとね」

 

 

どこをどう歩いて来たのか憶えてない。
だた、ナインに手を引かれるままにここまで来ていた。
桜の花を見ていたのかどうかも全く記憶になかった。
気付いたら、レジャーシートを広げて桜の樹の下に座っていた。
ナインと一緒に。

「たくさん作ったんだね」

お重を並べて、おにぎりを頬張りながら嬉しそうに言う。

「だって五人分だもの」
「そうか。・・・食べ切れるかな」
「ダメよ。残しておかないと、博士達の分が」
「大丈夫だよ。むこうにはシックスの作ったお弁当があるじゃないか」

言いつつも食べる手を休めない。

「でも・・・」
「おいしいね。さすがスリー」
「そんなことないわ。いつもと同じよ?」

特別なおかずなんて入れてないのに。

「もし違うとすれば・・・桜のせいじゃないかしら」
「ん?」
「キレイなお花を見ながら外で食べるのって気持ちいいし・・・ね?」
「うん――そうだね」

そう言って、じっと見つめてくる黒い瞳に急に鼓動が速くなった。

「ゼロ」
ゼロゼロナイン、と言おうとして――

「おーい!アニキー!!」

セブンたちの声に遮られた。
ナインの視線が私から外れる。

「おー!こっちこっち!」

セブンを先頭に博士たちがやって来た。

「いい場所を取れたのう」
「あー!遅かったか」

セブンがナインの食べ散らかした重箱を見つめ肩を落とす。

「やっぱりなァ・・・スリーってば、アニキの好きなもんばっかり作ってたからさ、早くしないと
アニキに全部食べられちゃうって思ってたんだよ」
「残念だったな」

ニヤリと笑うナイン。

私はセブンの言葉に思わず下を向いてしまった。
ナインの好きなものばっかり、って・・・別にそんなつもりじゃないのに・・・

「それにしても、少しくらい残しておいてくれたって・・・」

いじましく重箱をつつくセブン。

「ふん。ひな祭りの時、全部食べたのは誰だったかな?」
「えーっ。あの時の仕返しかよ」
「当然だ。スリーの作った食事を僕が食べなくてどうする」

睨みあうふたり。
・・・もう。せっかくのお花見なのに。

「ゼロゼロナインったら。また作るからケンカしないで?」

思わず仲裁に入る。

「また作る?そういう問題じゃない」
「そういう問題じゃない、って・・・」

だったら何なの?

その間に残っていた卵焼きを見つけ、大喜びで食べようとするセブン。
けれども、すぐにナインに押さえこまれ奪い取られてしまう。
わーわー大騒ぎのセブンと知らん顔のナイン。
そうして戦利品を口に放り込みながら、

「――しょうがないな。そこの屋台で綿菓子でも買ってくるから、それで我慢しろ」
「なんだよ、子供扱いしやがって」

卵焼き卵焼きー!と大騒ぎ。

「そうアルね。ワタシの作った弁当もあるからシテ」
シックスがお弁当を広げて博士とセブンに取り分けてゆく。

「・・・オイラもスリーのお弁当食べたかったなぁ・・・」
「また作ってあげるから」

笑いながら言うと、急にゼロゼロナインが立ち上がった。

「行くぞ。フランソワーズ」
「えっ?」
「ほら、早く。迷子になったら大変だろう?」

そう言って手を差し伸べている。

私も一緒に行くの?

「――ほら。フランソワーズ」
「え、でも・・・」
「僕ひとりじゃみんなの分を持てないよ」

そう言って笑う。
いったい何人分買うつもり?

「・・・しょうがないわねぇ」

言って、ナインの手をとった。

 

 

私の手を引いて、どんどん歩いてゆくナイン。
それも、綿菓子の屋台とは全く違う方向に。

「ジョー?」

呼びかけても、何も言わない。

どんどん博士たちのいる所から離れていってしまう。

「・・・ジョー?」

答えない。

とうとう公園の外れまで来てしまった。
けれどもそこは、桜並木がずうっと続いており、空が桜のピンク色に霞んで見えた。
花見客の喧騒からも遠く、花の揺れる音がきこえるようだった。

「・・・キレイ・・・」

ジョーは私の手を握ったまま、何も言わない。
ただ前を見ているその横顔をそうっと見つめた。

「――せっかく」
「えっ?」

しばらくの沈黙のあと、ボソリと呟くように言うナイン。

「せっかく、二人きりだったのに」

そうして一瞬私の目を見つめ――すぐに視線を逸らせた。
顔が赤い。
少し怒ったような口調で続ける。

「今度は、二人で来よう」

私は何て答えたらいいのかわからず、目の前を流れてゆく花びらだけを見つめていた。

 


                                      (水無月りら様より頂きました♪)