「寄せて上げたそのあとは」

「ジョー、お疲れ様っ」

 

着替えたナインをパドックで迎えたスリーは満面の笑みだった。


「ん。楽しめた?」
「もちろんよ!」

そうして、スリーは甘えるようにナインの腕に手をかけると、その肩におでこをつけた。

「・・・無事で良かった」
「うん?心配してたのかい?」
「ほんのちょっとよ」
「僕の力を見くびってたな?」
「そうじゃないわ、ただ心配だったのよ」
「あーあ、僕って信用がないんだなあ」
「もうっ、ジョーったら!」

ひとしきり笑いあって、手を繋いで。駐車場まで歩いてゆく。


「・・・ねえ、フランソワーズ」

ちらりと横目でスリーを見る。

「なあに?」

屈託の無い蒼い瞳に迎えられ、ナインはちょっと黙った。

「どうしたの?」
「・・・うん。その」

今日はいつもと違うね。どうしたんだい?
・・・と訊くのはストレートすぎるだろうか。

ならば

今日のきみは普段よりセクシーだね。

とか。

しかし、思い浮かべた途端、あまりの気障さにナインは顔を歪めた。

ばかな。そんな歯の浮くセリフが言えるもんか。


「・・・ジョー?どこか痛い?」
「あ、いや大丈夫」

心配そうに蒼い瞳が揺らめく。
何か言わなければ。

「本当に?なんだか気分が悪そうよ?」
「・・・いや、大丈夫。これはその逆だから」
「逆?」

きょとんと見開かれた瞳。・・・ああ、なんて可愛いんだろう!

「・・・その、今日はいつもより、・・・その」
「ん?」
「いやその、」

なんだか顔が熱くなってきて、ナインはそれを指摘される前にどうにかしなければと焦った。

「ジョー?」
「・・・っ」

ナインは顔を見られないようにするため、繋いだ手を引くとスリーを胸に抱き締めた。

「きゃっ、ジョー、こんなところでっ」
「いいから!」
「でも」
「レースのあとはみんなやってる!」

そうしてぎゅうっと抱き締めた。

 

・・・やっぱり違う。


でもそれを口に出すわけにはいかなかったし、直接確かめる術もなかったから、ナインは自分の胸にあたる弾力だけを楽しむことにした。


・・・それにしても、どうなっているんだろう?


「フランソワーズ」
「なあに?」
「・・・なんでもない」