ジョーは全然気付いてないんだわ。当たり前よね。
レースだったんだし、それにほら、傍からみれば殆んど変わりがないんだし。


ナインに抱き締められながら、スリーは胸の裡で溜め息をついた。


でも、いいの。だって、私自身の問題だったんだから。
その証拠に、今日は卑屈にならずにすんだわ。

納得する。
別にナインがどう思おうと関係ないのだ。自分がそうしたかったから、そうしたのだから。

とはいえ。

・・・でも、ちょっぴり気付いて欲しかったかも。

なんとも複雑であった。


「・・・あの、ジョー?」


自分の思いに沈んでいてわからなかったが、なんだかずいぶん長く抱き締められているような気がした。
いくら暗いとはいっても、人の通りはあるのだ。

スリーは恥ずかしくなって、身をよじった。
が、ナインの腕は緩まない。


「あの、」
「・・・ねえ、フランソワーズ」


スリーの肩に顔を埋めるようにして、ナインがくぐもった声で訊く。


「・・・もしかして、今日のきみ、」
「えっ!?」


まさか、ジョーは気付いてた!?

気付いて欲しかったと思っていたものの、かといって気付かれていたのかと思うとそれも恥ずかしかった。


やだやだ、ジョーはいったいどう思ったんだろう?はしたないとか、みっともないとか思ったかしら?
いやだ、どうしよう!

秘かにパニックに陥った。
ナインはそれに気付いたのかどうか、ちょっと笑むとスリーの髪にちゅっとキスをした。


「・・・今日のきみ、いつもとシャンプーが違うね」
「えっ!?」
「当たり?」


スリーがまじまじとナインを見た。


「・・・ええ・・・当たったわ。でも・・・どうしてわかったの?」
「うーん、どうしてだろう。レースの後で神経が研ぎ澄まされているからかな」
「そんなことあるの」
「きみに関してはあるかもね」
「やあね、ジョーったら」

スリーはちょっとうつむいた。

ナインはそんな彼女を優しく見つめ、そうして手を繋ぎ直した。