side J
大丈夫、と言っていたんだ。 だから僕は、彼女の言葉を信じた。
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背後で何かが転がる音がして、振り返ったら003が倒れていた。 彼女が攫われて、それを助けに行った僕たち。 僕は咄嗟に少女を下ろして003に手を差し伸べようとしたのだけど。 「いやっ、怖い!」 首筋にすがりつかれて出来なかった。それに、003は「私は大丈夫!」と言ったから。 僕の後ろでスーパーガンを構えながら走っていた003。 そのあとも速度を緩めず、予定時間内にセブンと落ち合った・・・の、だけど。
「あれっ?スリーは?」 セブンが僕の後ろを探している声に驚いて振り返った。
いない。
003の姿はそこにはなかった。 「アニキ、スリーはどうしたんだい?」 そんなことは僕のほうが知りたかった。 背中に冷や汗が流れ、僕はそのまま来た道を戻った。最大速度にスピードを上げて。
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003は無事だった。 いや、身柄は無事だったけれど身体は無事なんかじゃなかった。 脚を引き摺って。 ――足が。 さっき転んだ時に捻ったか何かしたのだろう。 ――何が「私は大丈夫」だ。 ふざけるな。 僕は胸の奥が熱くなって、彼女の姿を認めてすぐに腕に抱き上げた。 ――ばかやろう。 なぜ、言わなかった?
そのまま003は僕の腕の中で気を失った。
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気付かなかった僕が悪いのか。 言わなかった彼女が悪いのか。 セブンは「全部アニキが悪いよ」と僕を責めた。もっとスリーをちゃんと見ろ、と言って泣いた。 ――泣きたいのはこっちだ。 彼女は女の子であるけれど、003でもあるんだ。 だけど。 だからって、手を差し伸べない理由にはならない。 ――フランソワーズ。
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「あら、大丈夫よ?」 ベッドの上でフランソワーズは明るく笑った。 「笑ってる場合じゃないだろ。どうして寝てないんだ」 頬を膨らませて僕を睨む。 「ずうっとこっちに来なかったくせに」 僕が来たら機嫌が悪くなったから、しばらく部屋には入らなかった。 「――だって。いつも目のスイッチを入れてるわけじゃないもの」 頬を膨らませたままちょっと俯いて。 「・・・ズルイわ。顔を見せてくれなかったなんて」 さっきまでの元気はどうしたんだろう? 「フランソワーズ?」
***
ごめんね、フランソワーズ。
もっと大事にするよ。きみのこと。 きみは、003ではあるけれど僕にとっては大事な大事な女の子なのだから。
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