―3―

 

 

 

――その男は誰だ。

 

 

 

***

 

ある日の午後。

僕はいつものようにギルモア邸に向けて車を走らせていた。
そろそろちゃんと言ってしまおう――と考えながら。
いい加減、限界に近くなっていた。が、しかし。
果たしてそれを言うのが得策なのかどうかというと――自信がなかった。
――裏目に出たらどうする?それこそ目も当てられない。

ただ、それ自体もよくよく考えると、大した事ではないような気もしてくる。

そう――僕たちの間では、大した事ではない。
僕たちは、ちゃんと――

「――?」

たった今すれ違った車の中に彼女の姿を見つけて驚いた。
真っ白いセダンの助手席に乗っていた。運転手は――男だ。

彼女にあんな知り合いがいただろうか?

僕は彼女の交友関係を頭の中で思い浮かべた。けれども、僕の知っている中にあの男の存在は見つからなかった。
僕の知らない男。
そんな男が運転する車に乗り、しかも――少し頬を染めて何かを話しているように見えた。ほんの一瞬だったけれど。

思わずブレーキを踏んでいた。

彼女がいないなら、ギルモア邸に行く必要などないのだ。何しろ僕は、彼女に会いに行くところだったのだから。
かといって、別に約束していたわけでもないから、彼女が外出するのは一向に構わない。
構わないのだが――その相手が男だとなると、心中穏やかではなかった。

どうして僕にひとことも言わずに。

軽く舌打ちをすると、セダンの後を追った。幸い、この道はしばらく一本道だ。簡単に追いつける。

追いついてどうするのか――なんて、全く考えていなかった。
ただ、じっとしていられなかったのだ。

僕が追っているのを知って、もし彼女が怒ったとしても。
邪魔するなと言われたとしても。
それでも僕は、ただここに留まっていることなどできやしなかった。