―3―
――その男は誰だ。
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ある日の午後。 僕はいつものようにギルモア邸に向けて車を走らせていた。 ただ、それ自体もよくよく考えると、大した事ではないような気もしてくる。 そう――僕たちの間では、大した事ではない。 「――?」 たった今すれ違った車の中に彼女の姿を見つけて驚いた。 彼女にあんな知り合いがいただろうか? 僕は彼女の交友関係を頭の中で思い浮かべた。けれども、僕の知っている中にあの男の存在は見つからなかった。 思わずブレーキを踏んでいた。 彼女がいないなら、ギルモア邸に行く必要などないのだ。何しろ僕は、彼女に会いに行くところだったのだから。 どうして僕にひとことも言わずに。 軽く舌打ちをすると、セダンの後を追った。幸い、この道はしばらく一本道だ。簡単に追いつける。 追いついてどうするのか――なんて、全く考えていなかった。 僕が追っているのを知って、もし彼女が怒ったとしても。
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