―8―

 

数時間後。
ホールから人が溢れてくるのを見て、僕は席を立った。

フランソワーズを見つけなくては。しかし、僕の姿を見られてはならない。
ホールは一階にあったから、僕は上から人波を見ることができる二階へ上がった。
手すりから乗り出して、駅へ向かう人の流れをじっと見つめる。
見ているうちに酔いそうになってきたところでやっと――フランソワーズの姿を見つけた。
これから友人同士で食事でも行くのだろう。
と思いきや、フランソワーズはみんなに小さく手を振って、そこからひとり離れた。

いったい、どこへ行くというのだろう?

 

***

 

彼女は3階へ上がって――手当たり次第にショップへ入っていった。
どうやらただの買い物らしい。その割には何も買っていないようだったけれど。

そうしているうちに、クイーンズスクエア中央にある巨大ツリーの前へ向かった。
ツリーを見ているその様子は、頬がピンクに染まって目がきらきらして物凄く可愛かった。

――くそっ。
ひとりにするんじゃなかった。

いっそのこと、そばへ行ってしまおうか。他の野郎が彼女の可愛さに目を留める前に。

演出なのか、薄暗くなった店内に舞う雪を嬉しそうに見上げている彼女を見て、心を決めた。
いま彼女の元へ行かなかったら、きっと後悔する。
どうして僕がタイミングよくここにいるのかなんて、どうとでも説明できる。だから、いま・・・

「――島村さん?」

まさに移動しようとしたところへ背後から声がかけられた。
振り向いた先に居たのは、よく見知った顔だった。

「やっぱり!珍しいわね、こんなところで会うなんて」

確かにこういう所で知り合いに会うなぞ珍しい事だろう。
僕のように誰かの後をつけているのではない限り。

「やあ」
「ああ、これこそ神の配剤だわ。――お願い、助けて」

そう言って腕を掴まれる。

「何事だい?」
「彼に贈るものが決まらないの。お願い、選ぶの手伝って」

彼女はキャンペーンガールのひとりである。
僕のチームのメカニックマンと付き合いだしたばかりであった。

「そんなの、奴は喜ばないと思うよ」

僕だったら、フランソワーズが他の男と一緒に選んだものなど絶対に受け取らない。

「ううん、そうじゃないの。いちから選ぶんじゃなくて――ちょっと来て!」

腕を掴まれ、引き摺るように連れて行かれた先は、衣料品の置いてある店だった。
この界隈ではここにしか支店がない。――と、当の彼女の彼であるメカニックマンが言っていた。

「Tシャツなんだけど、迷ってるの」

そう言って広げられたままになっているシャツ数枚を見せられる。どれも柄は一緒だった。が、色が違う。

「どの色のを持ってたのか、すっかり忘れちゃってて」
なんだか緊張して、頭の中が真っ白になっちゃって、と恥ずかしそうに笑う。

「――奴はこの色は持ってるよ。でも、他は・・・うん。どれも嫌いな色じゃなかったと思うから、大丈夫だと思う」
「ほんとっ?」
「ああ」

途端に、僕など眼中にない様子で手元のシャツの吟味を始めた。

――女の子って可愛いな。
フランソワーズも、僕に何か贈る時はこんな風になるのだろうか。
一生懸命で。
きっと、頭の中でそのひとをイメージしながら。
そんなフランソワーズを見てみたかった。

「――じゃ、僕はこれで」
「あっ!助かりました。ありがとうございました」

軽く手を振って店を出る。

プレゼントか・・・

そういえば、クリスマスプレゼントをまだ用意していなかった。フランソワーズのぶんだけ。
何を贈ろうが考えてはいたものの、結局決まらずに後回しになっていた。
良かった、思い出して。

僕はひとつ頷くと、その先にあるアクセサリーショップへ向かった。